講座情報
  • 参考にした研修:2021年2月20日 の研修 (伊東祐郎 講師)
  • 制作者 ①:都築鉄平 (Semiosis)
  • 制作者 ②:島尻昌弥 (ICLC 国際言語文化センター附属日本語学校)

地域の日本語教室における交流や相互理解を促進するための「活動」として、どのような活動があるでしょうか?

理論・概念編の講座で見たように、地域の日本語教室というのは、従来的な日本語教室とは違い、交流や相互理解の場としての役割が非常に重要です。しかし、具体的にどのような方法でそれを行うかというところが難しい点だと思います。そこで、ここでは、「開発教育」で用いられる「参加型学習」の概念をみなさんにご紹介したいと思います。

開発教育について

みなさんは「開発教育」という言葉を聞いたことがありますか?ここではまず「開発教育」の理念や考え方についてご紹介します。

ここまで見たように、私たちが今ここで取り組む日本語教育は、従来の「教育」とは異なる側面があります。ここでの「教育」とは、何かが上手になるとか、成績があがるとかといったこと自体を目的としたもののではなく、多様性の理解を促進して地域の発展につなげるという目的のための手段として使われるものです。

教育のもつ、このような側面に焦点を当てた、「開発教育」 (Development Education) という考え方があります。簡単に言うと、開発教育というのは「持続可能な社会」を作るという目的を、「住民自身の参加」という手段で実現するような教育のことです。

以下は、開発教育の基本的な考え方です。今回の私たちには、この中の「1. 多様性の尊重」「4. 世界と私たちのつながり」「5. 私たちの参加」が深く関係しているでしょう。

1.多様性の尊重
開発を考える上で、人間の尊厳を前提とし、世界の文化の多様性を理解すること。

2.開発問題の現状と原因
地球社会の各地に見られる貧困や南北格差の現状を知り、その原因を理解すること。

3.地球的諸課題の関連性
開発をめぐる問題と環境破壊などの地球的諸課題との密接な関連を理解すること。

4.世界と私たちのつながり
世界のつながりの構造を理解し、開発をめぐる問題と私たち自身との深い関わりに気づくこと

5.私たちの参加
開発をめぐる問題を克服するための努力や試みを知り、解決に向けて参加する能力と態度を養うこと。

では、開発教育の手法である「参加型学習」について見ていきたいと思います。

参加型学習

開発教育は「参加型」であることが非常に重要なことであるとされていることから、学習も「参加型」で行われるべきだとされており、そのために用いられるメソッドとして「参加型学習」があります。

参加型学習について

「参加型学習」の考え方について見ていきましょう。

では、参加型学習が、どのような問題意識をもち、どのような方法でどのような目的を達成するためのものであるのかについて見ていきましょう。

参加型学習

参加型学習の「参加」には、主に学習活動への参加社会への参加の二つの意味が込められています。
学習活動への参加とはワークショップを例にするとわかりやすいかと思います。開発教育では、ワークショップという、学習者によってモノや意見をつくりあげる形態がよくとられます。開発教育のワークショップでは、何人かのグループで課題について話し合い、何らかの成果を出して発表し合いますので、単に「お客さん」として座っていることはできません。自分の知識・経験や考えを他のメンバーと積極的に共有することが求められます。

開発教育ってなんだろう ?その2

このように、みんなが参加して自分の知識や考えを共有していくことが重要だということです。また、このようなスタイルの学習を成功させるためのコツとして、以下のようなことも述べられています。

アイスブレイキング

互いの意見や経験を共有するためには、学習者の間に安心感や信頼関係が必要なので、ゲームや身体を使った楽しい活動(アクティビティ)を行って、緊張感や不安感を取り除くアイスブレイキングと呼ばれる導入のための活動がよく行われます。

開発教育ってなんだろう ?その2

このような活動を経て、以下のように述べられているような「社会への参加」へと繋げていくことが参加型学習の目的です。

「社会への参加」へ

(前略) 自分と社会との関係について考えることが参加型学習では重要です。例えば、ワークショップを行っている間だけの参加だけではなく、学習者がそこで得た学びから、実際に社会が直面する問題の解決や課題の実現に向けて主体的に行動していくことを参加型学習は想定しています。

開発教育ってなんだろう ?その2

このように、緊張のほどけた状態で、全員が参加して知識や考えを共有し、それを社会での活動につなげていくというのが「参加型学習」です。では、「参加型学習」の手法を簡単にご紹介します。

参加型学習の手法

参加型学習を実現するためのいくつかのアクティビティがあります。ここでは詳しくは見ませんが、以下の「参考リンク」のリンク先には、これらのアクティビティの行い方やコツが紹介されています。日本語教室でどのように生かせるか考えてみましょう。

以下のリンク先のページの一番下から、個々の活動のページにとべます。


みなさんはどのアクティビティに興味を持ちましたか?

  • 考えてみよう!

上で見たアクティビティの中に、みなさんの興味を引いたものはあったでしょうか?地域の日本語教室で活かせそうなアクティビティを挙げ、どのように活用できそうか書き出してみてください。


ここまで、「開発教育」と、その手法である「参加型学習」について見てきました。みなさんは「参加型学習」がだいたいどのようなものか、なんとなくイメージできたでしょうか?では、ここからは、これを「地域の日本語教室」や「日本語教育」と組み合わせて考えていきたいと思います。

外国人生活者への日本語教育と参加型学習

では、参加型学習が地域の日本語教室でどのように活かせるのかや、従来の日本語教育における教育・学習理論などとどのような関係にあるものなのかを考えてみましょう。

参加型学習+地域の日本語教室

参加型学習を地域の日本語教室における日本語教育に当てはめると、どのようなことが言えるでしょうか。

まず、参加型学習とは、以下のような学習法であることを見ました。

参加型学習

学習者の社会参加をねらいとする学習であり、またその参加を可能にするための多様な参加型の方法・手法によって特徴づけられる学習

これを地域の日本語教室に置き換えると、以下のように言えるのではないでしょうか。

地域の日本語教室+参加型学習

学習者とボランティアが共に語り合う中で、その現状・原因を理解し、解決方法を考えるという過程の中での相互の学びを重視した学習

このように、地域の日本語教室に参加型学習を取り入れることで、地域の日本語教室が上で見たような「異文化交流の最前線の場」としての役割を果たせるようにしていけるのではないでしょうか。


では、このような方法の学習が、具体的にどのように地域の日本語教室で活用できるのかを考えてみましょう。

  • 考えてみよう!

上で見たような参加型学習の考えに基づいて、地域の日本語教室でどのような活動を行うことができそうですか?具体的な状況を想定して (どんな生活者のどのような課題について取り組むのかを想定して) 、どんな活動ができそうかを考えてみてください。

参加型学習+言語習得・教育理論

第二言語習得や日本語教育の理論やメソッドの中にも、開発教育における参加型学習の考え方と親和性の高いものが存在します。以下にこのような理論・メソッドを挙げてあります。また、各理論の特徴も簡単に箇条書きにしてありますので、参加型学習との関係について考えてみてください。

(1) 自律学習

  • 多様な学びの側面を前提
  • 全ての学習者が積極的に学習に参加できる環境を創出
  • 学習者は必要に応じて、自ら学びの機会を活動の中に見出し、自律的に学ぶ

(2) 協同言語学習

  • 学習は、グループ内の学習者同士による情報交換に基づく
  • 学習者は自分自身の発話に責任をもつ
  • 学習者の動機を高め、ストレスを軽減し、積極的で感動的な教室環境を創造する

(3) 人間学的な手法

  • 学習者の内的側面に注目する
  • 各自の考えや、感情、感動を人間的発達段階の重要な要素として捉える
  • 学習経験、個人の成長やアイデンティティの確立に役に立つと考える
  • 学習が個人的なもので、将来の目標に何らかの関連を持っている

(4) 学習者中心の指導

  • 言語を使ったやりとりを増大させる
  • 課題を達成するために、共同で取り組む
  • 参加者相互間で支援したり、助けたり、勇気づけたり、必要な援助をする

これらの理論は言語習得や言語教育に関するもので、参加型学習は言語の学習に関するものではありませんが、いろいろな共通点や関係性が見出せるかと思います。


みなさんはどこに共通点・関係性を見つけましたか?

  • 考えてみよう!

上に挙げたような教育・習得理論について調べて、参加型学習とどのような関連が見いだせるかを考えてみましょう。

まとめ

参加型学習の考え方やメソッドは、地域の日本語教室でも参考になりそうな点がたくさんありましたね!

この講座では「地域の日本語教室」の考え方との親和性の高そうな「開発教育」における「参加型学習」と日本語教育との組み合わせの可能性について見てきました。参加型学習の考え方が、みなさんが地域の日本語教室での活動を考える際の参考になれば幸いです。