生活者としての外国人への日本語教育に使える教材にはどのようなものがあり、どんな観点から選んだらいいのでしょうか?また、使える素材などはどうやって見つければいいのでしょうか?
この講座の目的は、教材をより効果的に、そして豊かに使うためのヒントをみなさんと共有していくことです。そのために、地域の日本語教育で使える「教材 = 学びのリソース」を選ぶということについてみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
はじめに:教材の意義
まず、教材のもつ意義のうち、本講座において特に重視したい点について確認したいと思います。
みなさんは「教材とは何か?」と問われたら、どのように答えるでしょうか。いろいろな答えがあり得ると思いますが、ここでは教材のもつ「研究や実践で得られた学習の理論・知見・手法・内容を具現化したもの」という側面に注目して見てみたいと思います。
教材をこのようなものとして見ると、作成した教材を発表・出版する意義とは以下のようなものだと言うことができるでしょう。
教材を発表・出版する意義
研究や実践で得られた学習の理論・知見・手法・内容を周知・共有することができる
そして、その教材を教室や支援活動で使用することには、以下のようなことが可能になるという利点があります。
教材を使用することの利点
- 教師間で → 教室やコースの理念や学習内容・方法のガイドラインを具体化したり、共有したりできる
- 学習者と → 学習の方向性を共有し、同意を得るのに役立つ。
このように、「教材」という形で学習に対する考えを提示することで、教師間、あるいは学習者との間で学習に関する考えを共有することができます。 (地域の日本語教育の場合は「教師」を「支援者」、「学習者」を「外国人生活者」と言いかえてもいいかもしれませんね。) では、教材のもつこのような意義や利点を踏まえて、教材選びについて見ていきましょう。
教材選びの観点
では、適切な教材を選ぶ際に必要な観点としてどのようなものがあるかを見ていきましょう。
適切な教材を選ぶには教材を分析してプロファイリングする必要があります。ここでは、この分析・プロファイリングをするのに役立つ観点について見ていきます。
教材の分析と選択
まずは、教材を選ぶ際にポイントとなる要素について見てみましょう。以下はそのような要素を列挙したものです。
教材選びの観点
ただ、これらの要素を羅列してみても、教材を選ぶのは難しいです。目的や対象に合った適切な教材を選ぶには、これらの要素をニーズやレディネス、コースデザインなどと照らし合わせて適切かどうかを見極める必要があります。
ニーズ・レディネス・コースデザイン・ビリーフ
地域の日本語教育とビリーフ
では、上で見た要素の中の「ビリーフ」に焦点を当ててみていきましょう。
「ビリーフ=信念」は教材分析の中ではあまり取り上げられていないように思います。それは、ビリーフはニーズやシラバスの根底に関わっているため、教材分析の文脈では改めて語られないからかもしれません。しかし、日本語教育・支援の活動を充実させ、長く継続していくためには、教材選びにおいてもビリーフを考えることが重要であると感じられます。ここでは、教材選びにおけるビリーフの重要性に焦点を当てて見ていきたいと思います。
ビリーフについて
教材をめぐる議論をいくつか挙げてみましょう。例えば、どのような学習観・活動の型に基づく教材がいいのか?というようなものです。文型積み上げ式がいいのか、それとも Can-do ベースがいいのか、「教える側」と「学ぶ側」という関係で行う学校型がいいのか、それとも地域の住民同士という対等な関係で学んでいく活動・対話型がいいのか、また、言葉単独で学ぶのがいいのか、それとも言葉と内容を分けずに学ぶ方式 (CBI/CLIL) をとるのがいいのか等といったことです。
教材のタイプに関する議論
また、このような教材の型に関する議論以外にも、地域日本語教育の場ではさまざまな種類の議論に直面することになると思います。こういった種々の議論は、どちらか一方のやり方や考え方が正しいというものではないことが多いように思います。
最初に見た「教材の意義/利点」について覚えているでしょうか。教材には、支援者間や外国人生活者の人たちと「学習の方向性を共有」できるという利点がありました。これと、ここで見た「教材の型・方式はビリーフと関係」していることと合わせて考えると、教材選びについて以下のようなことが言えるのではないでしょうか。
自分や他の支援者、そして、外国人の参加者のビリーフ、また、自分が活動する教室のビリーフ(教室の活動方針)が、それぞれどのようなものであるのかを意識し、それらを刷り合わせて納得のいくものを選ぶことが大切である
では、以下では地域の日本語教室におけるビリーフについてもう少し見てみましょう。
次へ進む前に、ここで参考になる書籍をひとつご紹介します。
参考書籍
地域の日本語教室の活動形式はさまざまですが、こちらの「にほんごボランティア手帖」という本は、活動形式をいくつかのタイプに分けて紹介しています。 (『にほんごボランティア手帖』で検索)
地域の日本語教育におけるビリーフ
さて、教材選びにおけるビリーフの重要性について見ましたが、ビリーフはいろいろな情報にふれたり、経験したりすることで、日々更新されていくものです。自分は今、どんなビリーフを持っているのか、一緒に活動する人のビリーフ・教室の活動方針はどんなものだろうかと意識することが大切でしょう。
ここで、地域の日本語教育・教室にはどのようなビリーフ・方針があるのか、例を挙げて考えてみましょう。
まずは総務省が多文化共生に関して示している指針です。
・多様性と包摂性のある社会の実現による「新たな日常」 の構築
・外国人住⺠による地域の活性化やグローバル化への貢献
・地域社会への外国人住⺠の積極的な参画と多様な担い手の確保
コミュニケーション支援/生活支援/社会参画支援/ 地域活性化の推進/多文化共生の推進体制の整備
多文化共生施策を推進する今日的意義(総務省「地域における多文化共生推進プラン」)
次は、文化庁の挙げている、生活者としての外国人に対する日本語教育の4つの目標です。これまでの講座でも出てきた重要なものですね。
・日本語を使って,健康かつ安全に生活を送ることができるようにすること
・日本語を使って,自立した生活を送ることができるようにすること
・日本語を使って,相互理解を図り,社会の一員として生活を送ることができるようにすること
・日本語を使って,文化的な生活を送ることができるようにすること
文化審議会国語分科会「『生活者としての外国人』に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」
これらのような情報 (指針) を踏まえて地域の日本語教育を考える場合、支援者がもつビリーフにはどのようなものがあるでしょうか。ある人は生活に必要な日本語を学んだあとに生活について学ぶ (例A) べきだと考えるかもしれません。これとは違い、生活に必要な日本語と生活に関することを同時に学んでいく (例B) べきだと考える人もいるでしょう。
ビリーフ例
では、ここでみなさんにひとつ質問させてください。みなさんは上の A と B のどちらのビリーフをお持ちでしょうか。それとも、両方を同時に行うべきだと思いますか。
「集計結果を確認」をクリックすると、他の人たちの回答の数が見られます。みなさんは、そしてほかの人たちはどのようなビリーフをもっていましたか?ただ、繰り返しになりますが、これは「正しい正しくない」の問題ではありません。重要なのは、活動する教室やそこでの仲間がどのようなビリーフを持っているのかを意識して、それに合った、そして、多くの人が納得できる教材選びをすることです。
では、「ビリーフ」という観点から教材について少し考えてみましょう。
- 考えてみよう!
みなさんが今まで使ってきた・見てきた教材を思い返して、どんなビリーフに基づいたものであったのかを書き出してみてください。また、これからみなさんが生活者への日本語教育に携わるに当たって、どんなビリーフに基づいた教材を使いたいと思うかも考えてみてください。
市販教材の活用
では、上で見た、教材の型に関するビリーフを整理しながら、生活者としての外国人に対する日本語教育を行う際に活用できそうな教材について見ていきましょう。
市販の書籍教材
では、ここまで見た教材選びの観点を踏まえ、市販の教材について見ていきましょう。
教材のタイプ (例)
ここでは、「こんな教材の選び方もできるのでは?」というものを挙げてみます。
例えば、先ほど挙げた文化庁などの指針を鑑みて、「日本語も内容も扱い」、どちらかといえば「対話型でやろう」と思っているとします。こうした観点で見たときに、思い浮かぶ教材はあるでしょうか。
以下に、教材の例をいくつか挙げてみました。みなさんが思い浮かべた教材はあるでしょうか?
教材の紹介
では、実際に出版されている市販の教材を取り上げて見ていきます。各説明文の末尾の「調べる」というところをクリックすると、それぞれの教材名で検索した検索結果が表示されますので、より詳しく知りたいものについては、ここをクリックしてどのような教材か調べてみてください。
まずは言語を使って行う活動の面にフォーカスした教材について見てみましょう。
以下の2つも、伝え合う活動をベースにしつつ、活動を行うための言語表現等もフォローしています。
文法を体系的に学ぶことをベースにしながらも、自分のことを伝えたり、対話したりする活動も含まれる教材を以下に挙げました。
これらも、自分のこと・身の回りのことを伝え合う活動が組み込まれた教材ですが、より日本語の体系的な学習がベースとなっていると言えるでしょう。『にほんごこれだけ』は地域の日本語教室で使われることを前提に作られていて、会話・活動のし方の動画なども公開されています。『WEEKLY J』や『まるごと』は自分の身の回りのものを読んだり聞いたりという活動を積み上げていくことで日本語の能力ができあがるという流れで学びが設計されているので、地域の日本語教室でも活用しやすいです。『こんにちは日本語』は指さし会話帳のようなものですが、自分のことを話すためのきっかけとして使えるので、地域の日本語教室でも使いやすいです。(調べる1/調べる2/調べる3/調べる4)
ここまで教材を紹介してきましたが、みなさんがいいと思ったのはどのタイプの教材でしょうか。
活用上の留意点
上で見た教材は学校型でも対話型でも活用できますが、活用に当たっては以下のような点に留意しておいたほうがいいでしょう。
ワンポイント
教材を使用する際には、教材内のアクティビティのどれを教室内で参加者と支援者が一緒に行い、どれを個人で行うのかを考えて活動を設計する必要があります。特に、授業のオンライン化が広がるに伴い、どこまでをオンライン授業内で行い、どこを個人学習にするのかを区別する必要性が高まっています。
このように、教材を適切に選択し、かつ適切な使い方をすることが重要だということですね。
ではここで、私のおすすめの教材をご紹介します。
今まで見てきたものよりも少しレベル的に上の学習者が対象となる教材・支援者用の参考書ですが、雑談などを含む「人間関係構築型」のコミュニケーションを扱っているものをいくつかご紹介します。
参考書籍
教材の真正性を高める工夫
教材の真正性について
ここまで見てきた教材は ① 話す内容は自分自身のことや実際のことであり、② それを実際のやりとりや対話で学んでいくという点を重視したものでした。つまり、これらの教材の特徴は以下のように言うことができます。
教材の真正性
- ① 内容としての真正性が高い
- ② 言語活動としての真正性が高い
ここで言う「真正性」とは現実に則している度合いのことです。生活者が実際の生活の中で日本語を話すときは教科書内の例文に書かれていることでなく自分自身のことや実際のことを話すわけですから、真正性の高い活動で学んでおくことは重要でしょう。
このようなことは従来の日本語教育においても重要なポイントでしたが、地域の日本語教育に関する教材は、より真正性の高く設計されたものが多いように感じられます。
教材とレアリアを組み合わせる
上で見た各教材はどれも真正性を重視していますが、市販の教材は一般向けに出版されているものであるため、限界もあります。特定の地域でのみ、あるいは特定の人にのみ必要な日本語の活動を市販の教材に期待するのは難しいかもしれません。ここで考えたいのが真正性を高めるための「リソース」です。現実のひとやものといった「レアリア」を取り入れて、自分に合った形にカスタマイズするというやり方があります。
では、地域の日本語教育における「真正性を高めるためのリソース」とはどのようなものでしょうか。これを考えるに当たっては、既に見た以下のような総務省や文化庁の指針がひとつの手がかりになるのではないでしょうか。以下に、キーワードになりそうなことばを抜き出してみました。
地域社会への外国人住民の積極的な参画 / 健康かつ安全な生活 / 相互理解 / 文化的な生活
こういったキーワードに合ったリソースを追加することでより真正性を高めていけるのではないかと思います。自分や身の回りの人、地域の生活で必要になるものや場といったものを市販の教材に追加して取り込み、それを発信したり共有したりするという意識をすると、教材の真正性がより高まると思います。
例えば、前回の講座で見た、文化庁の出しているカリキュラム案の『教材例集』には以下のようなレアリアを使った教材の例が載っています。
レアリアの例
ここで見た他にもいろいろなレアリアがあり得ますよね?では、ちょっと時間をとってみなさんで考えてみてください。
- 考えてみよう!
みなさんの身の回りにある、地域の日本語教室で使えるリソース (レアリア) の具体例を挙げてみてください。思いつかない場合は、以下の、カリキュラム案の生活上の行為の事例の一覧を見ながら考えてみてください。
生活上の行為の事例 (クリックで展開)
市販以外の教材の活用
ここまで、市販の書籍教材について見てきましたが、ここからは市販以外の教材について見てみましょう。
市販以外の教材という選択肢
地域の日本語教育において、市販以外の教材というのはどのような意味をもつでしょうか。
教材というのは、必ずしも出版社から出版された市販の書籍教材だけではありません。市販ではない自作の教材や、書籍ではなくウェブサイト上で PDF 形式で配布されている教材や動画教材、学習アプリもあります。近年オンライン学習が普及してきたこともあり、このような書籍以外の教材が注目されています。このような教材は地域の日本語教育にとっても重要です。
地域の人たちによる「地域の日本語」教材
別の講座でもありましたが、「地域の日本語教室」という言葉は「地域」にある「日本語教室」という意味ですが、「地域の日本語」を学ぶ「教室」という見方もできます。文化庁も支援事業等で地域の実情に沿った地域独自の教材を地域の人たちの手で作成企画する事業を後押ししてきました。
例えば、地域で独自に教材を制作してウェブサイトからダウンロードできるようにしてあるものとして、以下のような例があります。
参考リンク
地域で制作された教材で有名なものに三重県の『みえこさんのにほんご』があります。財団法人三重県国際交流財団から発行された日本語教材で、三重県のサイトから無料でダウンロードできます。
市販以外の教材について考えてみる
市販以外の教材にもいろいろな選択肢がありそうですが、どうやって見つけたらいいのでしょうか。
では、これまでの話を簡単に振り返ってから、市販以外の教材を探すということを実際にやってみましょう。
市販以外の教材のメリット
ここまで見た「教材=学びのリソース」は大きく分けると以下の図の A 〜 C のような3種類に分けられると思います。
どのタイプの教材を使うか
A の市販教材は前のセクションで紹介した書籍などです。これらの教材は最大公約数的な内容になっているので、「この地域だからこそ / 今だからこそ」といった内容を取り扱いたい場合には向いていないかもしれません。そういった場合はレアリアを使うという選択肢、つまり B のような選択肢もあります。上で見た C のタイプの教材は地域の実情に合わせて作られているので、その地域や似たような特性をもつ地域で活用することができます。
教材を探してみる
では、上記の「B. 使えそうな話題や素材」と「C. 地域独自にまとめられた教材」を探してみましょう!まずは私と一緒にやってみましょう。ここでは、例として、神奈川県の相模原市で地域日本語教育に携わると想定して教材探しを進めてみます。
話題や素材 (B) を探す
まずは先ほどの「B. 使えそうな話題や素材」を探してみましょう。相模原市のホームページを見てみると…。
話題や素材を探した結果
市のホームページを見ると、相模原市にはロケットの打ち上げなどで有名な JAXA (宇宙航空研究開発機構) の相模原キャンパスというのがあることを発見しました。相模原市のサッカーチームが J2 に昇格したというニュースや、防災に関する情報なども載っています。これは、地元の話題として使えそうですね。
国際交流用のための施設もあるようです。「さがみはら国際交流ラウンジ」ですね。この名前で検索すると、ラウンジのホームページが見つかりました。いろいろ、生活者としての外国人にとって便利な情報が載っていそうです。
地域独自にまとめられた教材 (C) を探す
では、次は「C. 地域独自にまとめられた教材」を探してみましょう。少し範囲を広げて「神奈川県」で探してみると…。
地域独自にまとめられた教材を探した結果

県のホームページ内の「外国籍県民支援事業」のページに、神奈川県立国際言語文化アカデミアというところが作っている『つながる にほんご 〜かながわで ともに くらす〜』という教材を見つけました。身近な話題で話してコミュニケーションをとるというおもしろそうなものでした。

また、「神奈川」「国際交流」などで検索すると「かながわ国際交流財団」という団体が見つかりました。ここを見ると、かながわ国際交流財団は YouTube チャンネルももっていて、『にほんごのべんきょう』や『日本の子育て』という動画が公開されていることが分かりました。
どうでしょう。少し調べただけでも、地域の日本語教育に役立ちそうな情報や素材がいろいろ見つかりました。では、今度はみなさんがやってみましょう。
- やってみよう!
みなさんもテーマを設定して、そのテーマに合う教材探しをしてみましょう。まずは、「地域」や「目的」などに応じたテーマをひとつ設定してください。そうしたら、その地域や目的に合う教材探しをしてみましょう。
参考サイト
みなさんはどのような教材を見つけましたか?ここでは、比較的よく知られているサイトをいくつか紹介したいと思います。
まずは、ポータルサイト的 (総合情報サイト的) なサイトを2つご紹介します。
参考リンク① (ポータルサイト的なサイト)

こちらは前回の講座の最後で少し触れた、文化庁の 「NES (日本語教育コンテンツ共有システム)」です。このサイトでは日本語教育に関する教材,カリキュラム,報告書,論文,施策資料等を横断的に検索できるようになっています。

こちらは自治体国際化協会による「多文化共生ツールライブラリー (CLAIR)」です。各地域で作成された外国人支援や多文化共生ツールを検索、ダウンロードすることができます。
その他にも、以下のようなサイトがあります。初めの「教材例」は前回の講座で一緒に見たものですね。これは、このまま使う教材というよりは教材作りのヒントとして使うようなものでした。2つ目の「つながるひろがるにほんでのくらし」も前回の講座の最後で少し触れましたね。残りの2つについても、どうぞ時間のあるときに見てみてください。
参考リンク② (その他のサイト)
- 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案 教材例 (文化庁)
- つながるひろがるにほんでのくらし (文化庁)
- いろどり 生活の日本語 (国際交流基金)
- ちまたの日本語 “Real World Japanese” (国際日本語普及協会)
さいごに:「キュレーション力」について
最後に、教材を適切に選んで活用するのに必要な能力とは何であるかについて考えてみましょう。
ここまで、市販の書籍教材や、レアリア素材、また、地域で作られた独自の教材などの「教材=学びのリソース」についてみなさんと一緒に見てきました。最後に、これらの教材を使いこなすために重要な点について、ひとつ述べたいと思います。
これらの様々な教材・素材を適切に選んで活用するには「キュレーション力 (りょく)」とでも言うものが必要です。日本語教育におけるキュレーション力というのは以下のようなものです。
教材選びにおけるキュレーション力
例えば、美術館であるテーマに基づいて展示会を開くとします。そうすると、展示する作品等を企画する人 (キュレーター) は、多くの美術作品を知っていなければならないのは当然ですが、それらをテーマに合わせて組み合わせるという能力が重要です。このような能力を「キュレーション力」と呼ぶならば、日本語の教材選びにもキュレーション力が求められると言えるでしょう。
日本語教育におけるキュレーション力というのは、単に多くの教材や素材を知っているだけでなく、教室の支援者や参加者のビリーフ、地域におけるニーズ等を把握して、教材や素材を適切に組み合わせる能力だと言うことができるでしょう。日本語支援を行う中で、このキュレーション力を磨いていくことが重要だと思います。
今回の講座はここまでです。教材や素材の探し方や選び方、その重要性についての理解が深まったでしょうか。
ここまで、地域の日本語教育の教材の探し方・選び方についてみなさんと一緒に見てきました。地域の日本語教室においては支援者・参加者のビリーフもさまざまで、ニーズやレディネスも多様であることから、教材・素材のキュレーション力の重要性がより高いと思います。どうぞみなさんもこのような点を意識しつつ、いろいろなリソースを組み合わせて地域での日本語支援に役立ていってください。




















