地域の日本語教室では、外国人のみなさんに対して「教える」というよりも、彼らと「話す」というスタンスの方がよさそうです。でも、相手に「話させる」というのも意外と難しいことですよね?
今回の講座では、地域の日本語教室で活かせそうな「話を聞く」テクニックを磨くための参考になる情報として、言語の口頭運用能力を測る試験の考え方や、司法面接における構造化されたインタビュー手順について紹介し、みなさんにも実際に試してみてもらいたいと思います。
はじめに:生活者支援と「話を聞き出す」こと
この講座では、外国人生活者から上手に「話を聞き出す・情報を引き出す」ことの重要性と、そのテクニックについて見ていきます。
外国人生活者の支援において重要なことのひとつに、支援する相手から上手に「話を聞き出す・情報を引き出す」ということがあります。生活者のみなさんの話すことを私たちが正確かつ詳しく理解しなければ、適切な支援や日本語指導を行うことは難しいでしょう。
生活者支援と「話の聞き出し」
ここまでの講座の内容で言うと、例えば以下のような講座の中で、この問題と関係しているポイントが出てきました。
教育プログラムの企画において
日本語教育プログラムの企画に関する講座でも見たように、地域の日本語教室における教育プログラムを制作するに当たっては、学習者のニーズや事情をしっかりと聞き取って、それぞれの学習者に合った教育プログラムを実践する必要があります。従って、学習者からニーズ等をより詳しく聞き取る必要があります。
日本語教室での支援において
地域の日本語教室に関する講座でも見ましたが、地域の日本語教室では、支援者が生活者に一方的に「教える」のではなく、教室の外でのことを「お互いに話す」ことが重要だということでした。このためには、外国人生活者の話す教室外での体験や出来事についての話をきちんと正確に聞き取る必要があるでしょう。
このように、外国人生活者から上手に話を聞き出すことは、彼らを適切に支援したり、関わったりしていく上で非常に重要だと言えます。
話を引き出すことの難しさ
私自身が人から話を聞くときに悩むポイントとして、次のような点があります。相手に漠然とした質問を投げかけてしまうと、どんな答えを求められているのか分からずに相手が困ってしまいますよね?そうならないためには、話をある程度絞り込みながら具体的な話に持っていけばいいのですが、そうすると、こちらが話をリードしすぎてしまって、それが相手が本当に話したかったことなのかが分からなくなってしまいます。特に、相手にとっての外国語であり、こちらの母語である日本語でやり取りする場合にはこの問題が生じやすくなります。
みなさんも、外国人生活者と話す際などに、こういった問題を感じることがあるでしょうか。講座を始める前に、少しこの点について考えてみてください。
- 考えてみよう!
皆さんは外国の人の話から話を聞き出す際に ① 難しく感じている点や ② 注意している点はありますか?
OPI と NICHD プロトコル
この講座では、このような点を踏まえ、言語の口頭運用能力を測定するテストである「OPI」の考え方と司法面接の手段である「NICHD プロトコル」の手順を取り上げながら、「よりよい話の聞き出し方」についてみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
「能力の測定」や「司法面接」というと、一見外国人生活者支援とあまり関係ないものに聞こえるかもしれません。しかし、「話の聞き出し方」という観点からこれらを詳しく見ていくと、外国人生活者支援における重要な視点を与えてくれるポイントが含まれています。では、このような点を意識しつつ、まずは OPI から見ていきましょう。
OPI と「質問力」
ここでは、言語の口頭運用能力を測るテストである OPI のテスト手法を参考に、相手に話させる力 (質問力) について見ていきたいと思います。
OPI について
みなさんは OPI という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
まずは、「OPI とは何か?」「どうやって能力を判定するのか?」「どんなレベル分けがあるのか?」といった点について簡単に見ていきたいと思います。
OPI とは?
OPI (Oral Proficiency Interview) は、ACTFL によって開発された、日本語非母語話者に対するインタビュー形式の会話能力測定テストです。 OPI の特徴としては会話能力を測ることができるということに加えて、汎用的なテストとして使用できるという点があります。つまり、特定の学校や教科書で学んだ学習者に対してのみ有効なテストではなく、だれに対しても使用できるテストだということです。まずはこの OPI について簡単に見ていきましょう。
どうやって判定するの?
OPI はテスター資格を持ったテスターが1対1のインタビュー形式で、いろいろな質問をしていきます。そのインタビューは全て録音され、終了後にテスタ-が改めて聞き直し、ガイドラインに照らしながら、被験者の口頭運用能力がどのレベルにあるかを判定していきます。
インタビューのポイントとして、予め決まった質問内容がないという点があります。判定をする人 (テスター) は実際にインタビューを進めながら、臨機応変に質問内容を考えていくというやりかたです。なお、OPI のレベル分けは以下の通りです。
レベル分け
レベルは「超級、上級、中級、初級」という4つの主要レベルに分かれており、上級、中級、初級はさらに「上・中・下」の3つの下位レベルに分かれています。
何ができればどのレベルなのか、という基準も細かく定まっています。今回の講座では割愛しますが、興味のある方はこちらを見てみてください。
OPI がだいたいどのようなものであるか分かったでしょうか?では、次は OPI のインタビューと日本語教育との関係について見ていきたいと思います。
OPI と日本語教師の「質問力」
「能力の測定手法」である OPI が日本語教育・日本語支援にどう関係あるのでしょうか?
では、OPI のインタビュアーと日本語の支援者に必要とされるものとの共通点について考えてみましょう。
OPI のインタビューの特徴
この講座では OPI のもつ「決まった質問がない」中でのインタビューからレベル判定を行うという側面に注目したいと思います。以下の引用に見るような理由から、 OPI では決まった型の質問があるわけではありません。
インタビューは、レベルを判定するための決め手(証拠)となる発話サンプルを得るためにするもので「この質問に正解した」から、「XXレベル」というふうに判定するわけではありません。ですから、テストを受ける人のレベルによっていろいろな話題に関する質問をして、言葉を使ってどのようなことが出来るかというレベル判定の材料となるサンプルを引き出していきます。
日本語 OPI 研究会ホームページ (http://www.opi.jp/nyumon/nani)
このような形でレベル判定を行っていくためには、インタビュアーの、発話を引き出す能力というのが非常に重要だと思います。
「質問力・聴く力」について
嶋田 (2016)「OPIの考え方を授業に生かす」では、OPI と日本語教師としての能力の関連として「質問力」を強調しています。ここで挙げられているのは以下の4点です。
- 質問のための質問をしない
- お互いに情報を知りたいという気持ちを大切にする
- 質問の型を意識する
- 1問1答にならず、あることについて十分語れるような質問をする
OPI の考え方を授業に生かす 〜教師も学習者も<わくわくする授業>を目指して〜 (資料リンク)
質問して答えを引き出すことに熱心になりすぎてしまうと、質問のための質問をしてしまうこともありますが、それはよくないということですね。また、「知りたい」という気持ちで話を聴くことで相手にも「話したい」という気持ちにさせることも重要です。また、同じ内容を訊くにも、どのような型で質問するかを工夫したり、1問1答にならず、話を広げながら聴くことも重要だということです。
この中で重視されている「話題をどう展開しているか」や「どんな聴き方をしているか」、「被験者の発話をどう活かしている」といった点に焦点を当てて意識化するのに、OPI のインタビューは参考になるかと思います。
質問の方法について考えてみる
OPI のインタビューデータ
OPI のインタビュー内容は、以下のサイトから見ることができますので、「聴く力」として重要なポイントがインタビュー内でどのように生かされているかに注目してインタビューのデータを参照してみるといいかもしれません。
参考リンク
登録の必要なサイトですが、登録すれば無料でデータを参照することができます。
質問方法に注目してみる
では、実際にデータを聴きながら「質問力」について考えてみましょう。上でも見た嶋田 (2016) は、「質問力」について考えるために、以下のような点に注意して OPI のインタビューを聞いてみることを提案しています。
- どのように質問している?
- 話題をどう展開している?
- どんな「聴き方」をしている?
- 被験者の発話をどう活かしている?
- 被験者の「間違い」にどう向き合っている?
上記のポイントに注意して、分析的にインタビュー内容を見てみましょう。
- 考えてみよう!
「話の聞き出し方」に注目してインタビューのやり取りを聞き、話の引き出し方のテクニックやパターンを見出してみましょう。 (OPI と外国人生活者支援とでは話を聞き出す目的が異なるので、その点も考慮に入れておきましょう)
- このセクションのまとめ
ここでは、「話を上手に聞き出す」ことの重要性とその手法について、口頭運用能力判定のインタビュー (OPI) の考え方と併せて考えてみました。では、次からは、話の聞き出し方の具体的な手順の一例として、司法面接の手法である NICHD プロトコルという手順をご紹介して、それについてみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
NICHD プロトコルと「誘導しない聞き出し方法」
ここまでで、「話を聞き出す・情報を引き出す」上でのいろいろな工夫があり得ることがわかったと思います。このセクションでは、このための手法のひとつとして、NICHD プロトコルという手順 (プロトコル) をご紹介します。そして、このプロトコルにおける考え方をどのように外国人生活者の支援に活かしていけそうかについて、一緒に見ていきたいと思います。
NICHD プロトコルについて
では、まずは NICHD プロトコルがどのようなものなのか説明しますね。
まずは、 NICHD プロトコルがどのようなもので、私たちの「生活者としての外国人の支援」に対してどのようなヒントが得られるのかについて見てみましょう。
司法面接
NICHD プロトコルというのは司法面接の手段として使われるインタビューの手順です。といっても、そもそも「司法面接」という言葉自体が耳慣れないという方が多いと思います。司法面接については、以下の引用を見てみてください。
司法面接(forensic interviews)とは、虐待や事件、事故の被害を受けた疑いのある子ども(および障害者など社会的弱者)から、できるだけ正確な情報を、できるだけ負担なく聴取することを目指す面接法です。
立命館大学 司法面接研修 (サイトリンク)
このように、司法面接というのは事件の被害者や目撃者である「子ども」から情報を聞き出すためのものなのです。でも、どうしてこの面接のための手順が外国人生活者と関係するのでしょうか?私たちに関係ありそうな箇所 (「正確な情報」「負担なく」) に下線を引いておきましたが、この点についてもう少し見てみましょう。
司法面接において重要な点
司法面接で得られた情報は警察の捜査や裁判の証拠としても用いられるものです。このため、その情報の「信ぴょう性」が非常に重要です。子どもの証言が聞き手 (インタビュアー) が誘導的な聞き方をしてしまった結果のものであったら、その証言の信ぴょう性は下がってしまいますし、それは、実際には誘導されていないその他の証言の信ぴょう性にも影響を与えてしまうでしょう。このことから、 NICHD プロトコルは以下のような点に注意が払われています。
この面接法には大きく4つの特徴があります。まず子どもが誘導や暗示にかかりやすいことや精神的な負担を受けやすいことを考慮し、①応答に制約のないオープンな質問で、かつ自分の言葉で話す『自由報告』を重視すること。次に②自由報告の効果を最大限得られるように面接を構造化する(段階を設ける)こと、③正しい記録を残すために録画や録音を行うこと、最後に④面接の繰り返しによる記憶の変遷や精神的な二次被害を防ぐために多職種が連携して面接回数を最小限にすることです
子どもから正確な証言を得るには?変わる「司法面接」の現場 (サイトリンク)
特に関係ありそうなのは ① と ② の箇所ですね。このインタビュー手法では、聞き手が話し手を誘導しないことと、情報をしっかりと正確に聞き取ることが重視されているということがわかります。
NICHD プロトコルと「聴く力」
NICHD プロトコルがどのようなものかわかったかと思います。もちろん、私たちは裁判の証拠を聴き出すために外国人生活者と話すわけではありませんし、相手は必ずしも子どもというわけではありません。また、いつもインタビュー形式で話すというわけでもないでしょう。しかし、 NICHD プロトコルで重視されている以下の点は、私たち外国人生活者の支援者にとっても同様に重要なことだと思います。
- インタビューにおけるポイント
以下の点を両立させる。
- (A) 聞き手が誘導的にならず、「自分の言葉」で話してもらう
- (B) 情報を正確かつ最大限に聞き出す
これは意外と難しいのではないでしょうか。「自由に話す」点を重視すると、話があちこちへ飛んで、出てこなかった情報はそのまま流れてしまうということも起きます。一方で、聴き手の知りたい情報を聞き取ることを重視すると、聴き手からの質問に沿って話すという形になり、その時点で既に聴く側の先入観などが影響しています。
私たちが外国人生活者を支援する際に彼らから話を聴く場合も、こちらが誘導せずに自由に話してもらうことと、話の中からしっかりと情報を聞き取るということとを両立させるのが難しいと感じることは多いと思います。このようなことから、NICHD プロトコルには、外国人生活者支援の現場でも役に立つ面が含まれているかもしれません。
では、次は NICHD プロトコルの実際の手順について見ていきましょう。
NICHD プロトコルの手順
では、 NICHD プロトコルの手順を見ていきましょう。
ここではまず、 NICHD プロトコルにおける聞き出しの方法の分類を整理して、それから、このプロトコル内でそれらをどのような順序でどう運用することになっているのかについて見ていきたいと思います。
聞き出し方法の分類
まずは、相手から話を聞き出す際の方法を、NICHD プロトコルの手順に出てくる用語を使って整理していきしたいと思います。話を聞き出す方法は、大きく「誘いかけ」と「質問」に分けられます。
「誘いかけ (invitation)」は、例えば、「〜について話してください」というようなものです。「誘いかけ」の中にも「きのう何がありましたか?」のような質問形式をとるものもありますが、いずれの場合も、何らかの事実を前提とせず、答えの内容が話し手に委ねられた部分が非常に大きい「オープン (open-ended)」なものであることが特徴です。
「質問」はさらに2つに分けられます。ひとつは 指向的な質問 (directive question) で、これは特定の出来事に関する具体的な情報を求めるものです。疑問詞を使って「いつ、どこで、だれと・・・〜しましたか?」のように尋ねます。もうひとつは選択肢を提示した質問 (option-posing question) で、有限の選択肢の中から答えを選ばせるものです。「それはAですか?それともBですか?」といった疑問文や、「はい/いいえ」で答えるようないわゆる YES/NO 疑問文がこれに当たります。
誘いかけ (invitation)
「〜について話して」などといった誘いかけを使って話をしてもらいます。
指向的な質問 (directive question)
「いつ、どこで、誰が、〜しましたか?」のように疑問詞を使って特定の出来事に関する具体的な話をしてもらいます。
選択肢を提示した質問 (option-posing question)
選択肢を提示して選んでもらうという方法で話をしてもらいます。
The Revised NICHD Protocol p.10-p.12 (資料リンク)
上の「誘いかけ」から下の「選択肢を提示した質問」に向かって、聞き手が話し手に求める情報はより具体的になり、答えの選択肢は狭まっていきます。見方を変えると、聞く側による誘導が強まっていっているとも言えます。司法面接においては、このような点に深く留意することが要求されます。
「誘いかけ」の種類
上で見た3つのうちの最初の1つである「誘いかけ」について、もう少し詳しく見てみましょう。「誘いかけ」は聴き手の誘導を最小限にして聞き取りを行うパートで、インタビューの中で最も重要なパートです。NICHD プロトコルでは、「誘いかけ」のタイプとして以下のようなものを挙げています。
初回の誘いかけ (Invitation for a first narrative about the incidents.)
「何があったのか、話してください」のように言い、出来事について話を聞く
続きのための誘いかけ (Follow-up invitations)
「それから?」と聞き、後続する出来事についても聞いていく
時間分割した誘いかけ (Time segmenting invitations)
「A してから B までのことを,全部話してください。」のように聞く
きっかけを与えた誘いかけ (Cued invitations)
「さっき Aと言っていたけれど,そのことを(について)もっと話してください。」のように聞き、より詳しい情報を得る
The Revised NICHD Protocol p.10-p.12 (資料リンク)
インタビュー本題部分の手順
では、これらの質問をどのような手順で使用するのかについて見てみましょう。 (ここでは、 NICHD プロトコルの手順のうちの、実質的なインタビューパートのみを見ていきます。ほかのパートも興味深いものですが、司法面接特有の側面が強いので、今回は割愛します。) NICHD プロトコルの実質的パートの手順は以下の通りです。
- 自由形式の回想
- a. 初回の誘いかけ
- b. 続きのための誘いかけ
- c. 時間分割した誘いかけ
- d. きっかけを与えた誘いかけ
- 指向的な質問
- 選択肢を提示した質問
The Revised NICHD Protocol p.10-p.12 (資料リンク)
インタビューの実質的な部分となるパートを整理すると、このように大きく3つに分けられます。「誘いかけ」で進めていく最初の自由回想部分がもっとも重要で、より細かく記載されています。(実際の司法面接では休憩の取り方なども指定されていますが、ここでは省略してあります。)
では、ひとつひとつ見てみましょう。
自由形式の回想:まず最初に、自由形式の回想を誘いかけによって行っています。このパートはさらに細かく分けられます。 (a) 自由に回想してもらったり、 (b) 後続する出来事を連続的にを話してもらったり、 (c) 出来事間の時間を区切って整理して話してもらう、あるいは (d) より詳しく話してもらうというような誘いかけがあります。
指向的な質問:最初のパートで知った情報に関して十分でない箇所があった場合は、詳細な情報を得るため、疑問詞を使ってより具体的に質問をします。このタイプの質問は一問一答になってしまいがちですが、質問に対する回答に対して、「そのことについてもっと話してもらえますか?」と問いかけるなど、誘いかけとペアで用いるようにします。
選択肢を提示した質問:相手の話に出てこなかったことについて、「さっき〜って言ってたけど、そのときは居間にいたの?台所にいたの?」のように選択肢を提示して聞き出します。このタイプの聞き出しは語られていない事実の存在を前提としたり誘導的な質問になることも多いので、不要な場合にはしないように推奨されています。
この順番を見ると、よりオープンな「誘いかけ」から入り、より誘導の強い、「選択肢を提示した質問」へという流れの手順になっていることがわかります。では、次からは、このプロトコル (手順) のポイントまとめて、生活者としての外国人の支援に活用できるかどうか、あるいはどのように活用できるかを見ていきます。でも、その前にちょっとこのプロトコルについてみなさんが知ったことや抱いた感想などをまとめてみてください。
- 考えてみよう!
みなさんは NICHD プロトコルの特徴として、どのような点に気が付きましたか?普段自分がしている話し方と違う部分がありますか?
外国人生活者支援現場での応用に向けて
この手順を外国人生活者生活者の支援にどう活用できるか考えていく前に、手順をポイントを整理してみましょう。
ここでは、上で見た NICHD プロトコルの手順を生活者の日本語習得の支援というコンテクストにも応用できるように、少し単純化・一般化してみたいと思います。
ポイント1:後から精緻化する
NICHD プロトコルのポイントとして、情報を最初からひとつずつ丁寧に聞き出すというよりは、初めに自由に話してもらったあとに、そこで話されたことを利用しながらより正確な情報や詳しい情報を聞き出す段階に移行していくというやりかたをとっている点が特徴だと思います。
はじめから詳しく聞こうとすると、誘導的になってしまうので、まずは自由に話してもらいます。ただ、その後にそれらの話に立ち戻って、時系列を整理したり、より詳しく、正確に聞き取れるようにしていきます。
自由に話してもらうことが重要ですが、後でしっかり個々の話に戻ってきて、より詳しく聞いていくことを忘れないようにする必要があるということですね。
ポイント2:疑問文より誘いかけ
聞き出し手段の優先順位として、聴き手の無意識な誘導を避けるため、疑問文を使うよりも誘いかけを使って話を聞き出していくという点が重要です。誘いかけによる聞き出しにも限界はあるので、その際の補足的な手段として疑問文による確認も有効ですが、あくまでも補足的な手段という扱いです。また、この場合も誘いかけとのペアで行うことが推奨されています。特に、有限の選択肢から選ぶタイプの疑問文は不要な場合は使用しません。
はじめから詳しく聞こうとすると、誘導的になってしまうので、まずは自由に話してもらいます。ただ、その後にそれらの話に立ち戻って、時系列を整理したり、より詳しく、正確に聞き取れるようにしていきます。
なるべく「誘いかけ」だけを使ってより自発的に多くの情報を聞き出したいですね。これには慣れやテクニックが必要かもしれません。
ここでは、 NICHD プロトコルを外国人生活者の支援の現場でも活用できるような形に単純化して一般化してみました。どうでしょうか。この手法を使って話を聞いてみようかなという気になりましたか?そうしたら、実際にやってみましょう!
実際にやってみよう
では、この手法を意識しながら他の人の話を聞いてみるということをしてみましょう。
では、上で見た NICHD プロトコルのポイントを押さえながら話したいと思います。その前にまず、いくつか出てきた聴き方のメリットとデメリットについて整理したいと思います。
情報の引き出し方の整理
聞き出し方は大きく3つに分けられますが、「誘いかけ → 指向的な質問 → 選択肢を提示した質問」の順に、答える内容がより具体的になります。質問が具体的になることのいい点として、話し手がどんな答えが求められているのかが分かりやすいという点があります。しかし、その一方で、聞き手の方で何について話すかや答えの内容そのものをある程度絞り込んでしまっているので、聞き手の誘導が強くなってしまうという問題点があります。
では、これらの点に留意して、実際に話を聞き出す・情報を引き出すということをやってみましょう。
- やってみよう!
以下の手順でやってみましょう。
① 準備:となりの人に「生活の中で困った状況」になったことがあることを聞き、題材を決めて下さい (ここは準備段階なので NICHD プロトコルは気にしないでください) 。
② 聞き取り:NICHD プロトコルを参考にしながら話を進めていってみてください。
③ 振り返り:どのような手順で話が進んだかを、話し手と一緒に振り返ってみてください。
( 生活者としての外国人支援は司法面接とは目的が異なりますので、情報をもれなく聞き出すという点に注力しすぎる必要はありません。)
さいごに
今回の講座では、外国人生活者から上手に「話を聞き出す・情報を引き出す」ための「質問力」に注目して、 OPI の考え方を元に質問方法について考えたり、 NICHD プロトコルの構造化した聞き取り手順について学んで、誘導しないようにしつつも十分に情報を聞き取るための方法について考えました。
このように、一見外国人生活者支援とは直接関係ないようにも見えるものからも学べることはいろいろあると思います。今回一緒に考えた「質問力」について今後も意識しながら外国人生活者支援に役立ててみてください。
