講座情報
  • 参考にした研修:2021年2月13日 の研修 (渡辺唯広 講師・大橋由希 講師)
  • 制作者 ①:都築鉄平 (Semiosis)
  • 制作者 ②:菊池香織 (専修学校久留米ゼミナール 日本語学科)

生活者としての外国人への日本語教育に使える教材にはどのようなものがあり、どんな観点から選んだらいいのでしょうか?また、使える素材などはどうやって見つければいいのでしょうか?

この講座の目的は、教材をより効果的に、そして豊かに使うためのヒントをみなさんと共有していくことです。そのために、地域の日本語教育で使える「教材 = 学びのリソース」を選ぶということについてみなさんと一緒に考えていきたいと思います。

はじめに:教材の意義

まず、教材のもつ意義のうち、本講座において特に重視したい点について確認したいと思います。

みなさんは「教材とは何か?」と問われたら、どのように答えるでしょうか。いろいろな答えがあり得ると思いますが、ここでは教材のもつ「研究や実践で得られた学習の理論・知見・手法・内容を具現化したもの」という側面に注目して見てみたいと思います。

教材をこのようなものとして見ると、作成した教材を発表・出版する意義とは以下のようなものだと言うことができるでしょう。

教材を発表・出版する意義

研究や実践で得られた学習の理論・知見・手法・内容を周知・共有することができる

そして、その教材を教室や支援活動で使用することには、以下のようなことが可能になるという利点があります。

教材を使用することの利点

  • 教師間で → 教室やコースの理念や学習内容・方法のガイドラインを具体化したり、共有したりできる
  • 学習者と → 学習の方向性を共有し、同意を得るのに役立つ。

このように、「教材」という形で学習に対する考えを提示することで、教師間、あるいは学習者との間で学習に関する考えを共有することができます。 (地域の日本語教育の場合は「教師」を「支援者」、「学習者」を「外国人生活者」と言いかえてもいいかもしれませんね。) では、教材のもつこのような意義や利点を踏まえて、教材選びについて見ていきましょう。

教材選びの観点

では、適切な教材を選ぶ際に必要な観点としてどのようなものがあるかを見ていきましょう。

適切な教材を選ぶには教材を分析してプロファイリングする必要があります。ここでは、この分析・プロファイリングをするのに役立つ観点について見ていきます。

教材の分析と選択

まずは、教材を選ぶ際にポイントとなる要素について見てみましょう。以下はそのような要素を列挙したものです。

教材選びの観点

教材を選ぶ際の観点にはこれらのようなものがあると思います。特にオンラインでの授業の重要性などが高まっている昨今においては、媒体や付属物の有無、必要になる機材の有無やサポートページの有無などが重視されていると考えられます。

ただ、これらの要素を羅列してみても、教材を選ぶのは難しいです。目的や対象に合った適切な教材を選ぶには、これらの要素をニーズやレディネス、コースデザインなどと照らし合わせて適切かどうかを見極める必要があります。

ニーズ・レディネス・コースデザイン・ビリーフ

例えば、学習者のニーズに対して、教材の目的や身につけられる技能、教材の表記が合っているかどうかや、学習者の今のレベル (学習のレディネス) と教材のレベル・表記・対訳の有無などが合っているかどうか、学習者の学習可能な時間数や場所など (環境のレディネス) と教材の学習時間や機材等が合っているかどうか等をマッチングさせる必要があります。また、コースデザインや、学習者及び教師のビリーフが教材のシラバスに合っているかどうかも重要です。

地域の日本語教育とビリーフ

では、上で見た要素の中の「ビリーフ」に焦点を当ててみていきましょう。

「ビリーフ=信念」は教材分析の中ではあまり取り上げられていないように思います。それは、ビリーフはニーズやシラバスの根底に関わっているため、教材分析の文脈では改めて語られないからかもしれません。しかし、日本語教育・支援の活動を充実させ、長く継続していくためには、教材選びにおいてもビリーフを考えることが重要であると感じられます。ここでは、教材選びにおけるビリーフの重要性に焦点を当てて見ていきたいと思います。

ビリーフについて

教材をめぐる議論をいくつか挙げてみましょう。例えば、どのような学習観・活動の型に基づく教材がいいのか?というようなものです。文型積み上げ式がいいのか、それとも Can-do ベースがいいのか、「教える側」と「学ぶ側」という関係で行う学校型がいいのか、それとも地域の住民同士という対等な関係で学んでいく活動・対話型がいいのか、また、言葉単独で学ぶのがいいのか、それとも言葉と内容を分けずに学ぶ方式 (CBI/CLIL) をとるのがいいのか等といったことです。

教材のタイプに関する議論

教材に関しては、このようにさまざまな議論があります。言葉と内容を分けずに学ぶ活動の例としては、地域活性化のイベントを実施し、そのイベントの中で日本語の学習もしていこう、とか、ゴミ捨てのルールを知るためのポスターを使って、ゴミ捨てルールを学びながら、その中で日本語も学習するというものがあります。

また、このような教材の型に関する議論以外にも、地域日本語教育の場ではさまざまな種類の議論に直面することになると思います。こういった種々の議論は、どちらか一方のやり方や考え方が正しいというものではないことが多いように思います。

最初に見た「教材の意義/利点」について覚えているでしょうか。教材には、支援者間や外国人生活者の人たちと「学習の方向性を共有」できるという利点がありました。これと、ここで見た「教材の型・方式はビリーフと関係」していることと合わせて考えると、教材選びについて以下のようなことが言えるのではないでしょうか。

自分や他の支援者、そして、外国人の参加者のビリーフ、また、自分が活動する教室のビリーフ(教室の活動方針)が、それぞれどのようなものであるのかを意識し、それらを刷り合わせて納得のいくものを選ぶことが大切である

では、以下では地域の日本語教室におけるビリーフについてもう少し見てみましょう。


次へ進む前に、ここで参考になる書籍をひとつご紹介します。

参考書籍

地域の日本語教室の活動形式はさまざまですが、こちらの「にほんごボランティア手帖」という本は、活動形式をいくつかのタイプに分けて紹介しています。 (『にほんごボランティア手帖』で検索)

地域の日本語教育におけるビリーフ

さて、教材選びにおけるビリーフの重要性について見ましたが、ビリーフはいろいろな情報にふれたり、経験したりすることで、日々更新されていくものです。自分は今、どんなビリーフを持っているのか、一緒に活動する人のビリーフ・教室の活動方針はどんなものだろうかと意識することが大切でしょう。

ここで、地域の日本語教育・教室にはどのようなビリーフ・方針があるのか、例を挙げて考えてみましょう。

まずは総務省が多文化共生に関して示している指針です。

多様性と包摂性のある社会の実現による「新たな日常」 の構築
外国人住⺠による地域の活性化やグローバル化への貢献
地域社会への外国人住⺠の積極的な参画と多様な担い手の確保
コミュニケーション支援/生活支援/社会参画支援/ 地域活性化の推進/多文化共生の推進体制の整備

多文化共生施策を推進する今日的意義(総務省「地域における多文化共生推進プラン」) 

次は、文化庁の挙げている、生活者としての外国人に対する日本語教育の4つの目標です。これまでの講座でも出てきた重要なものですね。

・日本語を使って,健康かつ安全に生活を送ることができるようにすること
・日本語を使って,自立した生活を送ることができるようにすること
・日本語を使って,相互理解を図り,社会の一員として生活を送ることができるようにすること
・日本語を使って,文化的な生活を送ることができるようにすること

文化審議会国語分科会「『生活者としての外国人』に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」

これらのような情報 (指針) を踏まえて地域の日本語教育を考える場合、支援者がもつビリーフにはどのようなものがあるでしょうか。ある人は生活に必要な日本語を学んだあとに生活について学ぶ (例A) べきだと考えるかもしれません。これとは違い、生活に必要な日本語と生活に関することを同時に学んでいく (例B) べきだと考える人もいるでしょう。

ビリーフ例

ビリーフ例 A

こちらは、まず日本語を学び、ある程度日本語ができるようになった上で共生のための活動をしていくという考え方です。

ビリーフ例 B

このように、日本語と共生のための活動を分けるのは難しいのではないかという観点から、できるだけ同時に行っていくという考え方もあり得るでしょう。

では、ここでみなさんにひとつ質問させてください。みなさんは上の A と B のどちらのビリーフをお持ちでしょうか。それとも、両方を同時に行うべきだと思いますか。

みなさんはどちらのビリーフを持っていますか?



集計結果を確認

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「集計結果を確認」をクリックすると、他の人たちの回答の数が見られます。みなさんは、そしてほかの人たちはどのようなビリーフをもっていましたか?ただ、繰り返しになりますが、これは「正しい正しくない」の問題ではありません。重要なのは、活動する教室やそこでの仲間がどのようなビリーフを持っているのかを意識して、それに合った、そして、多くの人が納得できる教材選びをすることです。


では、「ビリーフ」という観点から教材について少し考えてみましょう。

  • 考えてみよう!

みなさんが今まで使ってきた・見てきた教材を思い返して、どんなビリーフに基づいたものであったのかを書き出してみてください。また、これからみなさんが生活者への日本語教育に携わるに当たって、どんなビリーフに基づいた教材を使いたいと思うかも考えてみてください。

市販教材の活用

では、上で見た、教材の型に関するビリーフを整理しながら、生活者としての外国人に対する日本語教育を行う際に活用できそうな教材について見ていきましょう。

市販の書籍教材

では、ここまで見た教材選びの観点を踏まえ、市販の教材について見ていきましょう。

教材のタイプ (例)

ここでは、「こんな教材の選び方もできるのでは?」というものを挙げてみます。

例えば、上の図のように教室のビリーフ・方針を整理し、それに合う教材を選ぶことをイメージしてみましょう。もちろん、実際はこの図のように単純化はできませんが、教材選びの観点として、「極端にいえば/どちらかといえば」という感じで考えてみてください。

例えば、先ほど挙げた文化庁などの指針を鑑みて、「日本語も内容も扱い」、どちらかといえば「対話型でやろう」と思っているとします。こうした観点で見たときに、思い浮かぶ教材はあるでしょうか。

以下に、教材の例をいくつか挙げてみました。みなさんが思い浮かべた教材はあるでしょうか?

教材の紹介

では、実際に出版されている市販の教材を取り上げて見ていきます。各説明文の末尾の「調べる」というところをクリックすると、それぞれの教材名で検索した検索結果が表示されますので、より詳しく知りたいものについては、ここをクリックしてどのような教材か調べてみてください。

まずは言語を使って行う活動の面にフォーカスした教材について見てみましょう。

会話を通じて参加者同士で身の回りのことについて情報交換を行う活動を中心にしています。ポイントは「教える側 (教師)」と「学ぶ側 (学生)」という関係が明確ではなく、同じ地域で生活をする一員としてお互いのことを伝え合う、知っている情報を共有する活動をするというところです。(調べる1/調べる2)

以下の2つも、伝え合う活動をベースにしつつ、活動を行うための言語表現等もフォローしています。

これらのように、教材内の活動で学ぶ文型や表現をリスト化したものを掲載しているものもあります。右側の『アイディアブック』は、CD-ROM の中に日本語の表現を練習するワークシートが収録されていて、より日本語の比重が高い設計になっていると言えそうです。支援者とは活動を中心に学び、教室外で日本語の予習復習をする、という使い方ができます。(調べる1/調べる2)

文法を体系的に学ぶことをベースにしながらも、自分のことを伝えたり、対話したりする活動も含まれる教材を以下に挙げました。

これらも、自分のこと・身の回りのことを伝え合う活動が組み込まれた教材ですが、より日本語の体系的な学習がベースとなっていると言えるでしょう。『にほんごこれだけ』は地域の日本語教室で使われることを前提に作られていて、会話・活動のし方の動画なども公開されています。『WEEKLY J』や『まるごと』は自分の身の回りのものを読んだり聞いたりという活動を積み上げていくことで日本語の能力ができあがるという流れで学びが設計されているので、地域の日本語教室でも活用しやすいです。『こんにちは日本語』は指さし会話帳のようなものですが、自分のことを話すためのきっかけとして使えるので、地域の日本語教室でも使いやすいです。(調べる1/調べる2/調べる3/調べる4)

ここまで教材を紹介してきましたが、みなさんがいいと思ったのはどのタイプの教材でしょうか。

活用上の留意点

上で見た教材は学校型でも対話型でも活用できますが、活用に当たっては以下のような点に留意しておいたほうがいいでしょう。

ワンポイント

個人で取り組む? 支援者と取り組む?

教材を使用する際には、教材内のアクティビティのどれを教室内で参加者と支援者が一緒に行い、どれを個人で行うのかを考えて活動を設計する必要があります。特に、授業のオンライン化が広がるに伴い、どこまでをオンライン授業内で行い、どこを個人学習にするのかを区別する必要性が高まっています。

このように、教材を適切に選択し、かつ適切な使い方をすることが重要だということですね。


ではここで、私のおすすめの教材をご紹介します。

今まで見てきたものよりも少しレベル的に上の学習者が対象となる教材・支援者用の参考書ですが、雑談などを含む「人間関係構築型」のコミュニケーションを扱っているものをいくつかご紹介します。

参考書籍

先に挙げた文化庁のカリキュラム案における4つの「目的」のうち、1つ目と2つ目に関する教材は多いように思います。一方で、3つ目と4つ目に主眼を置いた教材はまだ少ないかもしれません。しかし、この3つ目と4つ目は、実は職場や生活の場の安全・安心につながっていると思いますし、「QOL(生活の質)」を高めるためにも重要なものだと感じています。ここで挙げた、人間関係の構築に使える日本語を学べる教材はこの点を補える貴重なものだと思います。(調べる1/調べる2/調べる3)

教材の真正性を高める工夫

教材の真正性について

ここまで見てきた教材は ① 話す内容は自分自身のこと実際のことであり、② それを実際のやりとり対話で学んでいくという点を重視したものでした。つまり、これらの教材の特徴は以下のように言うことができます。

教材の真正性

  • ① 内容としての真正性が高い
  • ② 言語活動としての真正性が高い

ここで言う「真正性」とは現実に則している度合いのことです。生活者が実際の生活の中で日本語を話すときは教科書内の例文に書かれていることでなく自分自身のことや実際のことを話すわけですから、真正性の高い活動で学んでおくことは重要でしょう。

このようなことは従来の日本語教育においても重要なポイントでしたが、地域の日本語教育に関する教材は、より真正性の高く設計されたものが多いように感じられます。

教材とレアリアを組み合わせる

上で見た各教材はどれも真正性を重視していますが、市販の教材は一般向けに出版されているものであるため、限界もあります。特定の地域でのみ、あるいは特定の人にのみ必要な日本語の活動を市販の教材に期待するのは難しいかもしれません。ここで考えたいのが真正性を高めるための「リソース」です。現実のひとやものといった「レアリア」を取り入れて、自分に合った形にカスタマイズするというやり方があります。

では、地域の日本語教育における「真正性を高めるためのリソース」とはどのようなものでしょうか。これを考えるに当たっては、既に見た以下のような総務省や文化庁の指針がひとつの手がかりになるのではないでしょうか。以下に、キーワードになりそうなことばを抜き出してみました。

地域社会への外国人住民の積極的な参画 / 健康かつ安全な生活 / 相互理解 / 文化的な生活

こういったキーワードに合ったリソースを追加することでより真正性を高めていけるのではないかと思います。自分や身の回りの人、地域の生活で必要になるものや場といったものを市販の教材に追加して取り込み、それを発信したり共有したりするという意識をすると、教材の真正性がより高まると思います。

例えば、前回の講座で見た、文化庁の出しているカリキュラム案の『教材例集』には以下のようなレアリアを使った教材の例が載っています。

レアリアの例

電車の利用法

電車の乗り方に関して学ぶ教材 (『教材例集』 p.117)

ゴミ捨てのルール

ゴミを出す日について学ぶ教材 (『教材例集』 p.182) 。


ここで見た他にもいろいろなレアリアがあり得ますよね?では、ちょっと時間をとってみなさんで考えてみてください。

  • 考えてみよう!

みなさんの身の回りにある、地域の日本語教室で使えるリソース (レアリア) の具体例を挙げてみてください。思いつかない場合は、以下の、カリキュラム案の生活上の行為の事例の一覧を見ながら考えてみてください。

生活上の行為の事例 (クリックで展開)

Ⅰ 健康・安全に暮らす
01 健康を保つ02 安全を守る
  • (01)医療機関で治療を受ける
    • 隣人に容態を伝えて助言を求める
    • 初診受付で手続をする
    • 医者の診察を受ける
    • 病気への対処法・生活上の注意などを質問し答えを理解する
  • (02)薬を利用する
    • 医療機関で処方せんをもらい,内容を確認する
    • 症状を説明し,薬を求める
    • 薬剤師等の「効能,用法,注意」の説明を理解する
  • (03)健康に気を付ける
    • 流行性の病気についての情報を理解し適切に対処す る
    • 食品や飲料水の安全情報を理解する
  • (04)事故に備え,対応する
    • 各種の標識・注意書き等を理解する(高電圧危険,感電注意,立入禁止等)
    • 有効な施錠の仕方について理解する
    • 警察(110 番)に電話する
    • 近くの人に知らせる(事件等)
    • 救急車を要請する
    • 近くの人に知らせる(事故等)
  • (05)災害に備え,対応する
    • 自治体広報,掲示,看板等を理解し,現地を確認する
    • 避難場所・方法を理解する・人に聞く
    • ☆地震について理解する
    • 身を守る(地震発生時)
    • ☆台風について理解する
    • 天気予報・台風情報に留意し理解する
    • 消防・救急(119 番)や警察(110 番)に電話する(火災等)
Ⅱ 住居を確保・維持する
03 住居を確保する04 住環境を整える
  • (06)住居を確保する
    • 不動産業者に相談する
    • 居住する地域を選択する
    • 賃貸契約をする
    • 引っ越し業者に依頼する
    • 必要な手続を行う
  • (07)住居を管理する
    • ☆開始手続について理解する
    • 申込みをする(電気,ガス,水道等)
III 消費活動を行う
05 物品購入・サービスを利用する06 お金を管理する
  • (08)物品購入・サービスを利用する
    • 必要な品物を扱う店等を探す
    • ☆目的によって店舗の種類を使い分けることを知る
    • 販売しているところを探す
    • デパート,スーパーマーケット,コンビニ,電器店,書店等で買い物をする
    • 店内の表示を見たり店員に尋ねて欲しいものの場所を探す
    • 売り場を尋ねる
    • 店員に商品について尋ねる
    • 値段を知る
    • 商品の機能や値段を尋ねる
    • 商品の表示を読む
    • 値段・税率を計算する
    • 試着を申し出る
    • 色違いのものを頼む
    • サイズの変更を申し出る
    • ポイントカードや割引券を利用する
    • クレジットカードを利用する
    • 必要なものを選んで購入する
    • 支払いをする(対面販売)
    • 返品・交換をする
    • 注文する
    • 店ごとに受けられるサービスと代価を理解する(飲食店等の利用)
    • 希望の食べ物を扱う店を探す
    • 電話で予約する
    • 店員と話す
    • 店で人数や禁煙・喫煙などの希望を伝える
    • メニューを読む
    • メニューを選んで注文する
    • 食券を買う
    • 追加の注文をする
    • 支払いをする(飲食店)
    • ☆店ごとに受けられるサービスと代価を理解する(各種サービスの利用)
    • 店舗を探す
    • 利用方法を知る
    • コンビニエンスストアのサービス(ATM,ファックス,公共料金の支払い等)を利用する
    • クリーニング店,レンタルビデオ店,美容院,理容店を利用する
    • 商品に添えられた情報を的確に理解する
    • 新聞広告・折り込み広告を理解する
    • レシートを確認する
    • レシートを理解する
    • 代金を支払う
    • カードの利用の可・不可を確認する
  • (09)金融機関を利用する
    • 申込みをする(口座開設)
    • 預金の引出しをする
IV 目的地に移動する
07 公共交通機関を利用する08 自力で移動する
  • (10)電車,バス,飛行機,船等を利用する
    • 発車する時刻や掛かる時間を尋ねる
    • 目的地への行き方を尋ねる
    • 券売機を利用する
  • (11)タクシーを利用する
    • タクシー乗り場を探す
    • 道路でタクシーを止める
    • 行き先を告げる
    • 運賃を聞き取り,支払う
  • (12)徒歩で移動する
    • 住所表示,交差点名,街の案内地図などを読む
    • 地図上で目的地を確認する
    • 地図を書いてもらう
    • 目的地の方向や距離を確認する
    • 目的地までの道を尋ねる
VII 人とかかわる
14 他者との関係を円滑にする
  • (31)人と付き合う
    • ☆あいさつの種類と目的を理解する
    • ☆TPOに合った適切なあいさつ形式を理解する
    • 時宜に合ったあいさつを学んで実行する
    • ☆あいさつの文化的相違を理解する
    • 相手に合わせたあいさつをする
    • 日常のあいさつをする
    • 人間関係のきっかけを作るあいさつをする
    • ☆自己紹介の仕方を理解する
    • ☆相手や状況に応じた自己紹介の仕方を理解する
    • 仕事上の公的な自己紹介をする
    • 私的な場面で自己紹介をする
    • 分からないとき,疑問に思ったとき信頼できる相手に質問する(日本の一般的なマナー等について)
VIII 社会の一員となる
15 地域・社会のルール・マナーを守る16 地域社会に参加する
  • (33)住民としての手続をする
    • ☆各種手続の種類や内容について理解する
    • 役所の受付で外国人登録窓口の場所を尋ねる
    • 支払方法を確認する(各種税金)
    • 必要性を確認する(確定申告,還付申告)
  • (34)住民としてのマナーを守る
    • 居住地域のゴミ出しについて地域の公的機関で発行 している生活情報パンフレット等で確認し理解する
    • 居住地域のゴミ出しの方法について隣人に質問する
    • マナーについて人に相談する
  • (35)地域社会に参加する
    • 居住地の自治会について隣人に尋ねる
    • 自治会の会員になる
    • 行事に参加する
IX 自身を豊かにする
20 余暇を楽しむ
  • (44)余暇を楽しむ
    • ☆余暇を過ごす場所や利用方法を知る
    • 適当な人からアドバイスをもらう
    • 同僚や周囲の人からの口コミ情報を得る
    • ☆施設の種類や制度について知る(地域の公共施設)
    • 利用方法を尋ねる(地域の公共施設)
X 情報を収集・発信する
21 通信する22 マスメディアを利用する
  • (45)郵便・宅配便を利用する
    • ☆郵便局のシステムを理解する
    • 手紙や葉書を書いて送る
    • 不在配達通知に対応する
    • 宅配便を受け取る
  • (46)インターネットを利用する
    • ☆インターネットのサービス内容・利用方法を理解 する
    • インターネット検索の方法を人に尋ねて理解する
    • 電子メールを書く
  • (47)電話・ファクシミリを利用する
    • 電話を掛ける
    • 応答する
  • (48)マスメディア等を利用する
    • テレビ番組を見る

市販以外の教材の活用

ここまで、市販の書籍教材について見てきましたが、ここからは市販以外の教材について見てみましょう。

市販以外の教材という選択肢

地域の日本語教育において、市販以外の教材というのはどのような意味をもつでしょうか。

教材というのは、必ずしも出版社から出版された市販の書籍教材だけではありません。市販ではない自作の教材や、書籍ではなくウェブサイト上で PDF 形式で配布されている教材や動画教材、学習アプリもあります。近年オンライン学習が普及してきたこともあり、このような書籍以外の教材が注目されています。このような教材は地域の日本語教育にとっても重要です。

地域の人たちによる「地域の日本語」教材

別の講座でもありましたが、「地域の日本語教室」という言葉は「地域」にある「日本語教室」という意味ですが、「地域の日本語」を学ぶ「教室」という見方もできます。文化庁も支援事業等で地域の実情に沿った地域独自の教材を地域の人たちの手で作成企画する事業を後押ししてきました。

例えば、地域で独自に教材を制作してウェブサイトからダウンロードできるようにしてあるものとして、以下のような例があります。

参考リンク

地域で制作された教材で有名なものに三重県の『みえこさんのにほんご』があります。財団法人三重県国際交流財団から発行された日本語教材で、三重県のサイトから無料でダウンロードできます。

市販以外の教材について考えてみる

市販以外の教材にもいろいろな選択肢がありそうですが、どうやって見つけたらいいのでしょうか。

では、これまでの話を簡単に振り返ってから、市販以外の教材を探すということを実際にやってみましょう。

市販以外の教材のメリット

ここまで見た「教材=学びのリソース」は大きく分けると以下の図の A 〜 C のような3種類に分けられると思います。

どのタイプの教材を使うか

A の市販教材は前のセクションで紹介した書籍などです。これらの教材は最大公約数的な内容になっているので、「この地域だからこそ / 今だからこそ」といった内容を取り扱いたい場合には向いていないかもしれません。そういった場合はレアリアを使うという選択肢、つまり B のような選択肢もあります。上で見た C のタイプの教材は地域の実情に合わせて作られているので、その地域や似たような特性をもつ地域で活用することができます。

教材を探してみる

では、上記の「B. 使えそうな話題や素材」と「C. 地域独自にまとめられた教材」を探してみましょう!まずは私と一緒にやってみましょう。ここでは、例として、神奈川県の相模原市で地域日本語教育に携わると想定して教材探しを進めてみます。

話題や素材 (B) を探す

まずは先ほどの「B. 使えそうな話題や素材」を探してみましょう。相模原市のホームページを見てみると…。

話題や素材を探した結果

市のホームページを見ると、相模原市にはロケットの打ち上げなどで有名な JAXA (宇宙航空研究開発機構) の相模原キャンパスというのがあることを発見しました。相模原市のサッカーチームが J2 に昇格したというニュースや、防災に関する情報なども載っています。これは、地元の話題として使えそうですね。


国際交流用のための施設もあるようです。「さがみはら国際交流ラウンジ」ですね。この名前で検索すると、ラウンジのホームページが見つかりました。いろいろ、生活者としての外国人にとって便利な情報が載っていそうです。

地域独自にまとめられた教材 (C) を探す

では、次は「C. 地域独自にまとめられた教材」を探してみましょう。少し範囲を広げて「神奈川県」で探してみると…。

地域独自にまとめられた教材を探した結果

県のホームページ内の「外国籍県民支援事業」のページに、神奈川県立国際言語文化アカデミアというところが作っている『つながる にほんご 〜かながわで ともに くらす〜』という教材を見つけました。身近な話題で話してコミュニケーションをとるというおもしろそうなものでした。

また、「神奈川」「国際交流」などで検索すると「かながわ国際交流財団」という団体が見つかりました。ここを見ると、かながわ国際交流財団は YouTube チャンネルももっていて、『にほんごのべんきょう』や『日本の子育て』という動画が公開されていることが分かりました。


どうでしょう。少し調べただけでも、地域の日本語教育に役立ちそうな情報や素材がいろいろ見つかりました。では、今度はみなさんがやってみましょう。

  • やってみよう!

みなさんもテーマを設定して、そのテーマに合う教材探しをしてみましょう。まずは、「地域」や「目的」などに応じたテーマをひとつ設定してください。そうしたら、その地域や目的に合う教材探しをしてみましょう。

参考サイト

みなさんはどのような教材を見つけましたか?ここでは、比較的よく知られているサイトをいくつか紹介したいと思います。

まずは、ポータルサイト的 (総合情報サイト的) なサイトを2つご紹介します。

参考リンク① (ポータルサイト的なサイト)

こちらは前回の講座の最後で少し触れた、文化庁の 「NES (日本語教育コンテンツ共有システム)」です。このサイトでは日本語教育に関する教材,カリキュラム,報告書,論文,施策資料等を横断的に検索できるようになっています。

こちらは自治体国際化協会による「多文化共生ツールライブラリー (CLAIR)」です。各地域で作成された外国人支援や多文化共生ツールを検索、ダウンロードすることができます。

その他にも、以下のようなサイトがあります。初めの「教材例」は前回の講座で一緒に見たものですね。これは、このまま使う教材というよりは教材作りのヒントとして使うようなものでした。2つ目の「つながるひろがるにほんでのくらし」も前回の講座の最後で少し触れましたね。残りの2つについても、どうぞ時間のあるときに見てみてください。

参考リンク② (その他のサイト)

さいごに:「キュレーション力」について

最後に、教材を適切に選んで活用するのに必要な能力とは何であるかについて考えてみましょう。

ここまで、市販の書籍教材や、レアリア素材、また、地域で作られた独自の教材などの「教材=学びのリソース」についてみなさんと一緒に見てきました。最後に、これらの教材を使いこなすために重要な点について、ひとつ述べたいと思います。

これらの様々な教材・素材を適切に選んで活用するには「キュレーション力 (りょく)」とでも言うものが必要です。日本語教育におけるキュレーション力というのは以下のようなものです。

教材選びにおけるキュレーション力

例えば、美術館であるテーマに基づいて展示会を開くとします。そうすると、展示する作品等を企画する人 (キュレーター) は、多くの美術作品を知っていなければならないのは当然ですが、それらをテーマに合わせて組み合わせるという能力が重要です。このような能力を「キュレーション力」と呼ぶならば、日本語の教材選びにもキュレーション力が求められると言えるでしょう。

日本語教育におけるキュレーション力というのは、単に多くの教材や素材を知っているだけでなく、教室の支援者や参加者のビリーフ、地域におけるニーズ等を把握して、教材や素材を適切に組み合わせる能力だと言うことができるでしょう。日本語支援を行う中で、このキュレーション力を磨いていくことが重要だと思います。


今回の講座はここまでです。教材や素材の探し方や選び方、その重要性についての理解が深まったでしょうか。

ここまで、地域の日本語教育の教材の探し方・選び方についてみなさんと一緒に見てきました。地域の日本語教室においては支援者・参加者のビリーフもさまざまで、ニーズやレディネスも多様であることから、教材・素材のキュレーション力の重要性がより高いと思います。どうぞみなさんもこのような点を意識しつつ、いろいろなリソースを組み合わせて地域での日本語支援に役立ていってください。