<現状> 日本語教育空白地域について
今回のテーマとなる地域である「北海道」における外国人生活者やその支援に関わる状況 について、簡単に確認しましょう。
ここでは、北海道内のどの地域にどのくらいの外国人生活者が住んでいるか、滞在目的 (在留資格) は何であるか、学習支援の状況はどうであるかについて見ていきます。また、地域における外国人生活者支援の例として、浦河町の事例をご紹介します。
まずは、北海道における外国人生活者と、外国人生活者に対する日本語学習支援に関する状況について見てみましょう。
まず、北海道における外国人生活者の数とその分布状況を見てみましょう。
どこにどのくらいの外国人生活者がいる?
こちらの地図は北海道の各地域に住む外国人の数を示しています。やはり札幌市が多いですが、その他の多くの地域にも千人単位で外国人が暮らしており、外国人が地方に分散して居住している ことが分かります。道内の外国人数は合計で約4万人いますが、そのうちの 64% は札幌市以外 に住んでいます。
なるほど。いろいろな地域に外国人の居住者が散在しているという状況ですね。
では、次はこれらの外国人生活者がどのような目的で滞在しているかを、滞在資格から見てみましょう。
どんな目的 (資格) で滞在している?
ここでは、在留資格別の外国人数を全国のものと北海道のものとで対比する形で提示しています。大きく異なるのは、全国で「永住者」が多いのに比べ、北海道では「技能実習」が圧倒的に多い ことです。その他の就労関係の在留資格やその家族としての在留資格などを含めると、かなりの率の外国人生活者が就労者やその家族として滞在していることになります。
北海道の各地域に住んでいる外国人生活者の人々は、これらの地域の産業の担い手になっているわけですね。
では、日本語が学べるボランティア教室がどれくらいあるかについても見てみましょう。
日本語を学べる場はどのくらいある?
日本語が学べるボランティア教室は、札幌、小樽、旭川、函館、北見にあります。全14箇所のボランティア教室のうち、10箇所が札幌にあります 。主に、大学があるような地域にボランティア教室があることがわかります。一方で、道央や沿岸地域にはあまりないことが分かります。
ボランティア教室はかなりの数が札幌に集中しているという状況ですね。先ほど見た数字だと、外国人生活者の 64% は札幌以外に住んでいるということだったので、数は足りないように思えますね。
ここでは、北海道における外国人生活者とその支援に関する状況を、外国人生活者の人口と在留資格、日本語教室の数という点から見てみました。
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札幌市以外の地域にも外国人生活者が散在している 就労で滞在している人が多い 日本語学習のできるボランティア教室が都市に集中している
次は、より詳しく外国人生活者の事情や自治体の取り組みについて見てみたいと思います。ここでは、北海道の日高振興局管内にある浦河町の場合をご紹介します。
浦河町
浦河町では、馬に関する産業 や文化が重要な位置を占めています。こちらの画像は北海道の各町のシンボルである「カントリーサイン」ですが、浦河町をはじめとしたいくつかの町が馬をシンボルにしていることからもこのことが分かります。
フミさん、そこがポイントではありませんよ。馬に関する産業が浦河町の特徴であるという点を確認しておいてくださいね。これを踏まえて、次は、この地域に住む外国人に関する特徴について見ていきましょう。
外国人人口・国籍の傾向
国籍
国籍に関しては全国平均とは大きく異なり点があります。それは、日高振興局管内ではインド人が半数を超える という点です。この点は非常に特徴的だと思います。では、これらの人々がどのような滞在資格で滞在しているかを見てみましょう。
在留資格
こちらのグラフは日高振興局に住む外国人生活者の在留資格別の割合です。「その他」が圧倒的に多い (60%) ことが分かります。この「その他」のうちのほとんど (96%) が熟練した技能 を有する人を対象とした「技能」ビザ です。このビザは家族の帯同が認められており、「家族滞在」も 7% あります。
「技能」ビザ内で多いのが「動物の調教」に関する仕事です。上で見た通り、馬の産業が盛んな地域ですが、馬の調教という仕事で外国人人材 (主にインド人) が活躍 しています。
人口
こちらは浦河町の人口のデータです。令和3年の10月末では、日本人が 4人 減少 している一方で、外国人が 30人 の増加 となり、町全体としては 26人 増加しています。26人 という数は大きな都市では微々たる数かもしれませんが、小さい町では、とても大きな数字です。このように、日本人が減った分外国人が増えているので、町の人口を維持することができています。
生活
浦河町のスーパーには、道内の他のスーパーとは異なる特徴があります。それは、インド人のお客さん向けの商品が数多く並んでいるという点です。香辛料コーナーが充実しているのははもちろん、ヨーグルトやクッキーなどもインドのお客さんが好んで購入するブランドの商品は大量に陳列されています。インド人の生活者が消費者としても重要な存在 になっていることがわかります。
ええと…、つまり、多くのインド国籍の方が「技能」ビザで滞在し、馬に関する仕事を担っている、ということでいいでしょうか?
そうです。彼らがこの地域の産業の大きな担い手となっていて、人口の支え手や消費者としても、町の重要な存在になっています。では、地域としてこのような外国人生活者のみなさんのためにどのような取り組みをしているかを見てみましょう。
浦河町の取り組み例
このように、地域にとって重要な存在である外国人住民を抱える浦河町では、外国人住民の生活をサポートするための様々な取り組み がされています。例えば、ヒンディー語の母子手帳の作成 (参考 ) やヒンディー語版の防災資料 (参考 ) 、また、ニーズ調査や随行サービス、月一回の日本語教育の実施など (参考 ) が行われています。
なるほど。自治体による取り組みもされているんですね。インド国籍の住民が多いということで、ヒンディー語への翻訳を中心とした取り組みが多いようですね。
ここでは、浦河町における外国人生活者の存在の重要性や、町としての取り組みなどについて見てきました。
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地域の産業を支える外国人住民が多く生活している 人口の支え手や消費者としても地域にとって重要な存在である 自治体による、翻訳を中心とした取り組みが行われている
フミさんと一緒に、みなさん自身の視点でこのセクションを振り返ってみましょう。
都市部以外にも多くの外国人生活者 の人が住んでいるという点に驚きました。永住者や定住者を除いてこの数で、就労関係の在留資格の人の割合が高いので、かなり日本語学習支援の対象者はかなり多いのではないか と思います。
また、単に産業の担い手というだけでなく、一住民としても非常に重要な存在 なのかなと思いました。 そう考えると、これらの外国人住民のみなさんに対する支援は、「国際交流」とかではなく、日本人も含む地域全体の、将来に関わる重要な問題 なんだなと感じました。
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ここまで、北海道における外国人生活者事情について簡単に見てきました。ここからは、先ほどのデータからは見えにくかった、「日本語教育空白地域」の問題 に焦点を当てて見てみたいと思います。
上で見たように、地方においても外国人生活者は非常に重要な存在です。では、各地方における多文化共生や日本語教育に関する課題について見てみましょう。
先ほどのデータを見ると、北海道での外国人生活者の支援は充実していっているようにも見えました。しかし解決していかないといけない課題もあります。ここでは、その点について詳しく考えて行きたいと思います。
先ほど見たデータでは、北海道での外国人生活者は各地方の産業の担い手や人口の支え手として、非常に重要な存在であることを見ました。このように一住民として重要な存在である外国人生活者は地方の日本人の生活者や自治体からどのように見えているのでしょうか。
外国人生活者と地域の接点
既に見たように、多くの外国人生活者は就労目的で滞在している人たちです。就労者の場合、多くは自宅と勤め先を行き来する生活となるため、地域の他の住民との接点があまりありません。
このため、地域に住むほかの人々や自治体から見えにくい存在になっ てしまっているという問題があります。
なるほど。生活者の人たちが地域の住民から見えにくい存在になってしまっているんですね。地域を支える重要な存在なのに…。
その通りですね。
また、もう一つ別の観点から見てみましょう。先ほどの浦河町の例を見ても分かるように、日本語のわからない外国人生活者が日本語の問題で困らないように、翻訳版の母子手帳を作成するなどといった「翻訳」によるサポート が充実してきていることを見ました。しかし、これで十分と言えるでしょうか?
日本語学習の機会
さまざまな「翻訳」の資料などが準備されることで、日本語が話せない外国人生活者はとても助かると思いますし、非常に重要な取り組みです。ただ、「翻訳」は日本語が話せないという問題に対する本質的な解決策ではありません。
外国人生活者を、地域を支える一住民として考えたとき、日本語を学んでもらうことは非常に重要です。この「翻訳」でなく「日本語学習支援」によるサポート はなかなか進んでいないのが現状です。
なるほど。確かに、翻訳なら一度作成してしまえば使い続けられますし、その言語が分かる人がいさえすればいいですが、「教育」となるとそうはいきませんね。
ここでは、外国人生活者を地域の「住民」として見た場合に、外国人生活者が地域の他の住民から見えにくい存在になっている問題や、日本語を学んでもらう機会が十分でないという問題について見ました。
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外国人生活者が地域の人から見えにくい存在になっている 日本語学習を行う機会があまりない
では、外国人生活者が地域の他の住民から「見える存在」となるようにしたり、日本語を学べるようにしたりするに当たって、どのような課題があるかも見てみましょう。ここでは、釧路市のケースを見てみたいと思います。
外国人生活者が地域の他の住民から「見える」ような存在になるには、外国人生活者と地域との接点となるような場が必要です。また、日本語学習支援を行う場も必要でしょう。そのような場というのは…
地域の日本語教室ですね!地域に日本語教室を作れば解決ですね!
そうです。でも、地方に日本語教室を開いて運営していくのは簡単ではありません。
日本語教師の不在
例えば、釧路市の「釧路国際交流の会」は 1995年 に外国人と市民の交流の場として設立され、主にクルーズ船の対応など、外国語ボランティアの活動の場となっていました。ここでは、日本文化を紹介するだけでなく、日本語教室も開催されていました。しかし、その後、日本語教師が引っ越してしまって以降はボランティアだけとなり、その結果、日本語教室は開かれなくなりました。ボランティアのみなさんは「日本語教師でないから教えられない 」という気持ちが強かったようです。
交流の場自体はあっても、日本語学習支援に関してはボランティアの人たちが日本語教師ではないために「教えられない」という状況もあり得るということですね。
そうですね。このように日本語学習支援が進まないという問題は、地理や交通事情とも関係しています。
地理・交通事情
北海道は非常に広く、各地域間も遠く離れています。例えば、札幌から雄武や別海までは距離で 300 km で、東京都から愛知県に到達してしまえるほどの距離になります。また、移動手段も、バスなどを使うと一日がかりの移動 となります。広さは北海道特有の面があるかもしれませんが、地域間の移動が困難だという点は他の地域にも共通することが多いと思います。
そうか…。これだと、他の地域の教室へ行ったり、他の地域から日本語の先生に来てもらったりするのも簡単じゃありませんね。このような場所だと、日本語学習をする場所がない「空白地域」になってしまいがちなわけですね。
ここでは、空白地域の問題点を解決する「日本語教室」について、地方における日本語教室の運営が簡単なものではないという点を確認しました。
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日本語教育の専門家がいる地域は多くない 地域間の移動は容易ではない
フミさんと一緒に、みなさん自身の視点でこのセクションを振り返ってみましょう。
北海道、広いですね…。道内の一振興局だけでも、普通の県ひとつ分くらいの広さで、その振興局内にいくつも町があるわけですね。 これだと、ひとつの振興局にひとつ教室があっても全然足りないですね。少なくとも、ひとつの町にひとつの日本語教室が必要 ですね。
あと、「翻訳」の提供による支援と「学習機会」の提供による支援との違いも、あまりよく考えたことがありませんでした。 学習機会の提供は翻訳とは違い、日本語教育のノウハウの問題 があって、地域の住民だけで解決することが難しい わけですね。
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