<分析>
日本語教育空白地域の問題

課題の整理と取り組み

ここでは、前のセクションで見た「現状」を整理した上で、その課題を解決するための取り組みについて考えて行きたいと思います。

では、課題の整理と課題解消のために必要な取り組みの2つに分けて見ていきましょう。

課題の整理

まずは、ここまでで確認できた日本語教育空白地域の問題を整理して、どのような状態に持っていくべきなのか、そのための障害は何なのか、という点について確認しましょう。

前のセクションでは、都市部でない地域における外国人生活者支援に関して、以下のような問題があることを見ましたね。

  • 外国人生活者が地域の人から見えにくい存在になっている
  • 日本語学習を行う機会があまりない
  • 日本語教育の専門家がいる地域は多くない
  • 地域間の移動は容易ではない

では、一旦これらの問題を整理して、それから、どのような取り組みが必要とされているかを考えて行きましょう。

まず、外国人生活者と地域の人たちとの接点になり、日本語や日本の生活に関することを学べるような場所が必要だと思います。

ですから、そのような場として日本語教室を作り、外国人生活者が地域の人たちと一緒に日本語を学んだり、日本のことについて知ったりする場になればいいと思います。

そうですね。それはまさに日本語教室の役割でした。でも、それを実現するためには問題もありますよね?

はい。地域に日本語指導の知識をもった専門家がいることはあまり多くないため、日本語の学習支援が難しいということでした。

また、それ以外にも、地域で日本語教室をやっていくには日本語教室運営のノウハウが必要だと思いますが、地理的な事情や交通の事情から、そういった専門家に定期的に来てもらうのも難しいです。


日本語教育空白地域がどのような状態になることが望ましいのかや、そのために解消しなければならない障害について確認できましたね。

  • POINTS
  • 実現したいこと
    各地域の日本語教室で多文化共生や日本語教育の取り組みを行う
  • 障害となっていること
    日本語教室の運営や教育の実践に必要なノウハウがない場合が多い

必要な取り組み

では、上で見た障害を解消して、「望ましい状態」を実現するためにどんな取り組みが必要かについて考えてみましょう。

上では、日本語教育空白地域の抱える課題について整理しました。では、ここでは、この課題を解決するために必要な取り組みについて考えましょう。フミさんは、どのような取り組みが必要だと思いますか。

地域の人々に、日本語の学習支援のし方を知ってもらったり、日本語教室の役割等を知ってもらったりして、地域の人たちの手で日本語教室を立ち上げて運営していけるようにする必要があると思います。

なるほど。そうなれば、素晴らしいですね。そのために、日本語教育の専門家であるフミさんができることは何ですか?

私にできることは、地域の人たちに日本語の教え方に関するノウハウだったり、地域の日本語教室の様々な活動のし方などを知ってもらい、日本語教室の立ち上げと継続的な活動が可能なように手助けすることだと思います。

そうですね。日本語教育の専門家として、地域のボランティアのみなさんの日本語教室での活動をサポートし、運営を継続・発展させていくという役割を担うことができますよね。


ここでは、日本語教育空白地域に日本語教室を作るに当たっての障害を取り除く方法について考えてみました。

  • POINTS
  • 地域の日本人ボランティアに多文化共生や日本語教育の基礎を知ってもらう
  • 日本語教室の立ち上げや、ボランティアによる運営をサポートする

振り返ろう

フミさんと一緒に、みなさん自身の視点でこのセクションを振り返ってみましょう。

  • 空白地域の事情についての感想

分析的に振り返ることで、日本語教育の空白地域で解決しなければならない問題が見えてきました。
各地域 (町) に日本語教室が必要だけれども、日本語教育のノウハウがないために取り組みが行えないわけですね。
外国人生活者支援には関心がある住人の方も少なくないようなので、もったいないですね。

  • 取り組むべき課題について

ここで私たちにできることは、日本語教室の立ち上げや運営に必要なノウハウなどを伝えるということ。つまり、これが取り組むべき課題ということになりますね。
とは言え、具体的にはどんな取り組みが必要なんだろう?もう少し具体的に考えてみなきゃ!


取り組みを考える

ここからは、前のセクションで考えた「空白地域に日本語教室を作ることをサポートする」という取り組みをデザインするのに必要なことやその手順について考えて行きたいと思います。

では、取り組みをどのような流れで行っていけばいいのかを、ガイドブックを参考にして見ていきましょう。そして、日本語教室立ち上げのための講座で何をすればいいかについても見ていきましょう。

取り組みを考えるに当たって

まずは、取り組みを考えるに当たっての参考になる資料と、その流れなどについて確認しましょう。

日本語教育の空白地域における「望ましい状態」がはっきりしましたね。これで、取り組むべき「課題」が見えてきたと思います。

はい。地域の人たちによる日本語教室の立ち上げや運営をサポートできるようにする必要があることが分かりました。この問題に取り組んでみたいと思います。

いいですね。

とは言っても、何から始めたらいいのか…。

そうですよね。では、参考になる資料をご紹介しますね。ここからは、この資料を参考にして見ていきましょう。

ガイドブック

地域で新しく日本語学習支援を始めるときに参考にできる資料をひとつご紹介しましょう。この『地域日本語ボランティア講座開催のためのガイドブック』(日本語教育学会 2014) には、地域の日本語学習支援に関わるボランティアさん向けの養成講座を行うためのガイドブックです。

*以下、ページ番号はこの使用内のページ番号になります。

私にピッタリの資料!どんな内容なんだろう?

次のユニットで詳しく見ていきますので、ここではごく簡単にガイドブックの全体の流れについて見てみましょう。

ガイドブックの流れ

この資料はこのような5つの段階 (p.12) に分けて、地域での日本語教室活動を支援するための講座に関する情報が載っています。今回は1つ目から3つ目までの部分に焦点を当てて、取り組みについて考えて行きましょう。

  • ① 講座開催を考える前に
  • ② 講座の目的・目標の設定
  • ③ 講座の組み立て

やることが手順化されているんですね。これは助かる!

そうですね。必ずこのままの手順で進めなければならないというわけではありませんが、参考になると思います。

地域の日本語教育を構成する人々や組織、その役割などについての全体像を概観し、今回の取り組みの位置付けを確認しましょう。

地域の日本語支援の全体像

こちらの図 (p.8) にもあるように、地域の日本語教育は「システムコーディネーター」や「日本語コーディネーター」、そして「日本語ボランティア」で成り立っています。

地域の日本語教室は、一番真ん中の円の部分 (色が最も濃い部分) に当たりますね。今回はここで外国人生活者のパートナーとなる「日本語ボランティア」の人たちへの講座を行い、教室の立ち上げを支援していくという取り組みですね。

今回は日本語教室の「立ち上げ」を目標とした講座について考えますが、日本語教室は立ち上げて終わり、というわけではありませんね。教室の継続的・発展的な運営のためには、いろいろな講座があり得ます。これらについても確認しましょう。

目的別の講座の分類

ボランティア向け講座は6種類に分けられています。今回の講座は「B」の「立上」に該当します。この「立上」以外にも、既に活動している教室の日本語ボランティアのレベルアップや、日本語コーディネーターの育成など、さまざまな講座があることがこの表に示されています。


なるほど。ボランティアの人たちがどんどんレベルアップして、次の人たちを育成していくような流れにできるといいですね。

このガイドブックでは、ボランティア向け講座の開催について書かれていますが、今回のフミさんの役割は、講座を行うだけでなく、日本語教室の立ち上げまでをサポートすることですよね?そこまでを頭に入れながら、次ではもう少し詳しく見ていきましょう。


ここでは、ボランティア向け講座の開催に関する資料の流れや学習支援における日本人ボランティアの位置付け、そして、講座の種類について見てきました。

  • POINTS
  • ボランティア向け講座を開催するのに参考になるガイドブックがある
  • 地域の日本語学習支援は、システムコーディネーターや日本語コーディネーター、ボランティアなどにそれぞれの役割がある
  • ボランティア向けの講座には、教室立ち上げのためのものや日本語コーディネーターにステップアップするためのものなど、目的に応じた複数のものがある

教室立ち上げ支援を行うに当たって

今回の取り組みである日本語教室の立ち上げに必要な「立上」講座の開催に向けて何をするのかを考えて行きましょう。

では、まず講座の開催を考える前にしておくべきことについて確認しましょう。

講座開催を考える前に

まずは「講座開催を考える前に」の部分ですね。この状況分析チャート (p.13) を参考にしましょう。地域の状況分析が必要ということですね。確かに、地域をどのような状態に持っていくためにそのボランティア講座が必要なのか、という点を明確にする必要がありますよね。

対象となる地域に関して、 ① どのような外国人が住んでいるか、② どのような支援が行われているか、③ 日本語支援がどのように行われているか、などを知っておくということですね。

次は、講座の目的を設定して、内容を考えて行く際の方法について見てみましょう。

講座の目的・目標の設定

ガイドブックに載っているこちらのシート (p.18) のように、「どんな地域を作りたい?」という最終的な目標から、そのために必要なこと… というように逆算して、より具体的な「目的」の設定へと進んでいくといいと思います。

なるほど。分かりやすいですね。地域の事情を把握した上でどんな地域を作りたいかという目標を定め、そこから、より具体的な目的の設定し、講座を組み立てていくわけですね。

そうですね。では、講座を組み立てる際に考えないといけないことを整理しましょう。

講座の構成

講座については、 (1) 時間数、(2) 内容、(3) 形態 などを決める必要があります。このうちの「内容」の部分については、この資料の「講座カタログ」を見ると、具体的に参考になるような例が載っているので、見てみてください。こちらの例 (p.38) は今回のテーマの「立上」講座用のお知らせ資料です。

これは、イメージしやすくていいですね。ここまでできれば、講座の準備はオッケーってことかな?

そうですね。ただ、フミさんの場合は、講座を行うだけでなく、実際に教室を立ち上げるところまでのプランを立てたいわけですから、教室の運営に向けてのことも考える必要がありますよね?

あ、そうだった!ボランティアさんの養成以外に何が必要かな…?

教室の立ち上げと運営に向けて

教室を運営するにあたっては、学習支援の形態 (クラス形式か、1対1か…) や活動場所の確保、運営費の確保するなど、考えないといけないことがいろいろあります。

確かに、その問題がありました…。実はこの辺りが一番難しい課題になるかもしれないですね。

では、ここまで見てきた流れをもう一度振り返りましょう。

  • POINTS
  • ① 地域の外国人生活者の現状について知る
  • ② 目標とする日本語教室の姿などを明確化し、講座の目的を考える
  • ③ 講座の目的に応じたカリキュラムを設計する
  • ④ 教室の立ち上げと運営に向けて必要なことを考える

振り返ろう

フミさんと一緒に、みなさん自身の視点でこのセクションを振り返ってみましょう。

  • 取り組みの位置付け

「地域日本語教育システム図」で、今回の取り組みの位置付けと、取り組みにおける自分の立場の位置付けとがはっきりしました。
あと、講座の種類全体を見ることで、教室の立ち上げというのははじめの一歩で、そこから先に、活動をより発展させていくための道のりが存在していることも分かりました。

  • 取り組みのために必要なこと

また、取り組みを行っていくに当たって、どんなことを考えなければならないかや、どのような考え方でプランを立てていけばいいのかがわかってよかったです。
でも、実際にプランを立てるとなると…。実際にこういった講座を行った事例などがあれば、教えてほしいです。