<取り組み事例と実践>
事例から学ぶ&アクションプランを作成する

事例に学ぶ

ここからは、実際に北海道で日本語ボランティアとして活動したり、ボランティアの養成を行ったりしている方の話を聞いて、現場の実際の事例から学んでいきます。

ヒトミさん
ユウコさん

ここでは、実際に日本語教室の立ち上げのための講座を行ったり、ご自身も日本語教室での活動に参加したりしている北海道日本語センターのヒトミさんとユウコさんに聞いてきたので、お二人の経験からいろいろ学ばせていただきましょう。

前のセクションでフミさんが考えた「取り組み」のために必要なプランを振り返ってから、見ていきましょう。フミさんが考えたのは以下のようなものでした。

フミさんの考えた取り組みプラン

  • ① 地域の外国人生活者の現状について知る
  • ② 目標とする日本語教室の姿などを明確化し、講座の目的を考える
  • ③ 講座の目的に応じたカリキュラムを設計する
  • ④ 教室の立ち上げと運営に向けて必要なことを考える

① 地域の外国人生活者や支援の現状について知る

まずはボランティア向け講座を企画する前の段階の部分に関する話を聞いてみましょう。

では、浦河町で日本語教室の立ち上げの支援やボランティア向け講座を行ったヒトミさんのお話しを聞いてみましょう。

外国人生活者の就労状況の把握

ヒトミさん、地域の状況を把握するためにどのようなことを行いましたか?

外国人住民の就労状況などに関する詳しい状況を把握するため、企業や技能実習生の管理団体、地域の商工会議所などに直接問い合わせを行いました。

商工会議所などにはまとまったデータがあると思います。また、地図を見て、大きな企業があればそこに電話したりしました。

企業などを探して直接電話したんですか。とても地道な作業ですね。

はい。インターネット上にある情報も活用できますが、必ずしも最新の状況を反映した情報でない場合もあるので、こういった方法での状況把握も重要だと思います。

より詳しい状況を把握するためには、いろいろな手段で情報を得る工夫が必要なんですね。

自治体との連携への取り組み

ボランティア向け講座の開催や教室の立ち上げに関して、自治体との連携に関してやってみたことはありますか。

はい。ボランティア向け講座を行うに当たっては、直接自治体に連絡をしました。ただ、必ずしも行政の担当者の関心があるわけではなく、取り合ってもらえないこともよくありました。

そうですか。取り合ってもらえないとなると、がっかりですね。

はい。でも、関心を持って講座の開催に協力してくれた自治体もありました。浦河町の場合は、議員さんなどにも働きかけるなどして開催を行い、参加者の中に議員さんもいるという状況でした。

自治体の議員さんに陳情することで、教室運営に自治体の予算なども割り当ててもらえる場合もありますよ。

自治体によっては、関心を持ってくれて取り組みを行ってくれるというところもあるんですね。

地道に情報を取得したり、自治体の協力を得たりする努力をすることも重要なんですね!

  • POINTS
  • インターネット上で見られるデータだけでなく、雇用先の企業などに直接問い合わせて現状を調査する。
  • 既にあるサービスや仕組みを利用することに加え、行政や議員に直接働きかけて、協力して取り組む。

② 講座の目的と方針を設定する

では、講座を行うに当たっての目的の設定や、どのような方針で講座の設計を行うことにしたかという点について教えてもらいましょう。

北海道日本語センターは北海道の「日本語教育人材 養成講座運営委託業務」を受託し、令和2年8月から令和3年3月まで業務を行いました。この時の講座について、目的や方針を堂設定して行ったかを教えてもらいましょう。 (講座の詳細)

講座の目的

ヒトミさん、このときのボランティア向け講座は、どのような目的を設定しましたか。

空白地域の事情などを踏まえて、講座の最終的な目標を以下のように設定しました。


  • 地域の外国人の状況や支援者側の条件を踏まえて、自分の住んでいる地域や自分の職場で、どのような形の日本語学習支援ができるか、実現可能な日本語学習の場をデザインする

なるほど。地域の人たち自身が、地域の事情なども踏まえて学習の場をデザインできるようにするということですね。

はい。この最終的な目標にたどり着けるように、以下のような目的を定めました。これらの目的を達成することで、上で見た目標を果たせると考えました。

  • 外国人の目から見た日本語の特徴や、日本語学習支援の意義と具体的な方法について学ぶ。 
  • 「やさしい日本語」でのコミュニケーションについて学び、外国人との日本語でのコミュニケーションを体験する。
  • 地域の外国人をめぐる状況について知るとともに、同じ地域で日本語学習支援に関心を持つ人々と交流し、今後のネットワークづくりの手がかりを得る。

最終的な目標から遡って、目的を考えていったということですね。

講座の方針

講座を行うに当たっての「方針」として設定したものもあれば、教えてください。

はい。講座の時間は「6時間×3回」と決まっていたので、 限られた時間でより意味のある講座とするために、ポイントを絞って説明し、足りない部分は参考資料等を紹介することで補いました。また、② 知識として学ぶだけでなく日本語学習支援の具体的なイメージがつかめるよう、チラシから話題を考えたり外国人ゲストとの模擬体験をしたりしてもらうというアクティビティも組み込みました。さらに、③ 受講者同士のつながりが深まるように、活動ごとのグループ編成を工夫するなどしました。

  • 講座の方針
  1. ポイントを絞ってわかりやすく説明する
  2. 一方的な講義ではなく、具体的な活動を組み込んで実践的な学びの場にする 
  3. 講座でのさまざまな活動を通して受講者どうしの交流を深める

このように方針が定まっていると、講座の中身を決めていくときにも、この軸に従って考えていけるので、とてもいいですね。

目的や方針をしっかり定めておくことの重要性が分かりました!

  • POINTS
  • 目的:日本語の特徴などを理解した上で、地域の状況に合わせた日本語学習の場をデザインできるようにする。
  • 方針:限られた時間で、より具体的なイメージをつかめるようにし、参加者同士のつながりも作れるようにする

③ 講座のカリキュラムを作成する

では、次では、このような方針に基づいて設計された、講座の「中身」について教えてもらいましょう。ここからは、北海道日本語センターのユウコさんにお話しを伺ってみましょう。

6時間を3回に分けた講座のそれぞれについて、どのような内容の講座や活動を行ったのか教えてもらいましょう。

第一回

ユウコさん、第一回目にどのような内容の講座を行うことにしたのか教えていただけますか?

第一回目は、まず地域に住んでいる外国人の状況を理解してもらい、それから学習支援者の役割について知ってもらいました。そして、外国人の目から「日本語」がどのように見えているのか、日本語はどのような言語で、どのように学ばれていくのか、など外国人が学ぶものとしての日本語に関するポイントを知ってもらいました。

これらをこちらが一方的に教えるのではなく、話し合いをしたり、日本語を観察してもらったりするなどして、インタラクティブで能動的な方法で行っていきました。

  1. 地域の外国人の状況
  2. 日本語学習支援者の役割
  3. 日本語の特徴、初級の学習内容

なるほど。第一回はまず基礎知識からということですね。でも、受講者が受身になることのないよう、工夫されていたんですね。

第二回

では、次は第二回の内容をどうしたかを教えてください。

第二回目は、「日本語を教える」という点を中心にしました。初級段階の日本語の教え方や、目的に応じた日本語の教材と使い方について話しました。地域の書店に日本語の教材が置いてあることはめったにないので、実際に本を持っていったり、出版社の方に来ていただいたりもして、日本語教育関係の書籍を実際に見てもらいました。また、やさしい日本語についても話しました。

活動としては、地域のチラシを使った会話教材の作成を行ってみたり、やさしい日本語で会話するというタスクをしてもらいました。

  1. 初級段階の日本語の教え方
  2. 目的に応じた日本語の教材と使い方
  3. コミュニケーションのための「やさしい日本語」

第二回は「日本語を教える」という点が中心ですね。あと、外国人に分かりやすく話すというのも重要ですね。このパートについても、座学だけでなく、アクティビティを交えながら講座を行ったんですね。

第三回

最後の第三回目はどのような講座を行いましたか?

第三回目は、ボランティアの教室が実際にどのような形式で行われているのかやどんな内容の活動を行っているかなど、教室の形態や内容ついてのお話しをしました。そして、日本語教室を作るとしたら、そこで何をしていくのか、ということをみんなで話し合ってもらいました。その後、外国人ゲストを招いての日本語教室の模擬体験もしてもらいました。

  1. 学習支援内容と教室の様々な形
  2. 自分の地域での日本語学習支援のプラン
  3. 日本語教室の模擬体験

教室での活動について実際に考えた上で、外国人ゲストを招いて模擬体験をしてみたんですね。対面式の講座ならではのすばらしい取り組みですね。第一回と第二回で学んだことを活かせるような流れになっていて、すばらしいですね。

ちゃんと、前に見た「方針」に基づいて「目的」を果たせる内容になってるし、「体験」や「活動」が随所にちりばめられていて、とても工夫されてる!

  • POINTS
  • 設定した目的を、決めておいた方針に従って果たすものになっている。
  • 「体験」したり、「つながり」を作ったりできる工夫がなされている。

④ 教室の立ち上げと運営に向けて必要なことを考える

ここまで、一緒に教室での活動を行うボランティア人材の養成について見てきました。では、最後に、教室の立ち上げと運営についてのアドバイスも聞いてみましょう。

ユウコさん、教室の立ち上げに向けて考えておかないといけないことは、どんなことがありますか?

そうですね。大きなところでは、教室をどんな形態にするかということと、教室の場所資金等の問題があると思います。あと、参加者と仲間を集めて、組織的に運営していくことになるので、そのために必要なことも考えておかないといけないですね。

  1. 教室の形態
  2. 場所の確保
  3. 参加者・仲間集めの方法と組織の運営

教室の形態

では、例えば、教室の形態については、どうやって決めたらいいでしょうか。

教室の形態は、クラス形式、1対1の形式、小グループ形式等、様々な形式があり得ます。

例えば、私が参加している札幌の「窓 (HP)」というボランティア教室は、外国人生活者がカウンターに行くと、カウンターの係の人が、その日参加している日本人ボランティアを割り当てて日本人ボランティアと外国人のペアを作ります。ボランティアは自分の参加したい日に参加すればいいという仕組みです。

なるほど。そうやって、そのやり方がきちんと回るような仕組みが作ってあるんですね。

この形式だと、ボランティアは参加したい日に参加すればいいし、外国人生活者も行きたいときに行けばいいというメリットがあります。一方、外国人生活者は、行ってみるまで誰とペアになるのか分からず、ボランティアも何をするかは外国人生活者が来るまでわからないので、準備などはできません。これをデメリットだと考えるかどうかは人によると思います。

教室の形態はいろいろありますが、それぞれの形態にメリット・デメリットがあるので、それを考慮してどんな教室にするかを決めたらいいと思います。また、地域の事情などで変わってくる部分もあるでしょうから、これが正解というのはないと思います。

ちゃんとメリット・デメリットを整理して、地域や教室の状況を踏まえた形式を考える必要があるということですね。

教室活動の場所

教室の場所の確保など関しても、何か参考になるお話しがあれば、教えてください。

場所については、会場を確保するのが意外と大変だと思います。毎回教室の場所が変わってしまうと、その日の場所が分からずに外国人参加者が帰ってしまうということも起き得ます。以前は、会場を確保するため、予約日に並んで予約する、という状況でしたが、今はインターネットで行えるところが多いですよね。

また、会場を借りるための費用も馬鹿になりません。この点は、自治体に掛け合う、技能実習生の受け入れ先で場所を借りる、知り合いで場所を貸せる人を探してみる、… 等、いろいろ工夫の余地はあると思います。この辺りは、アイデアを出し合って乗り越えていかないといけないですね。

確かに、会場の確保は資金の面も含めて大きな課題ですね。

はい。ここは知恵の出しどころですね。私の場合、おうちがお寺をしている人がいて、その方から「お寺の余っている部屋を使ってください」とご提案いただいたこともありました。この辺りは、みなさん知恵を出し合って乗り越えていってください。

自治体に掛け合う場合などは、自分たちの活動が自治体にとってメリットのあるものであることなどもアピールできるといいですね。

確かに、場所と費用は大きな問題ですね。でも、簡単に諦めてしまうのではなく、いろいろな方面に当たってみて解決法を探すということが大事なんですね。

参加者・仲間集めの方法と組織の運営

参加者を集めたり、仲間と組織的に運営していくことについては、どんなことを考えた方がいいですか。

教室を立ち上げて待っているだけでは誰も来ないので、外国人参加者を集めることを考えなければなりません。外国人生活者はこちらから見えにくい部分もあるので、積極的に調べてアプローチする必要があります。

例えば、勤め先の企業や商工会議所などを通じて、参加を促すという方法があります。

確かに、教室を作っても外国人生活者の人たちにそれが知らされなければ、参加できないですよね。

また、教室の立ち上げ時には日本人ボランティアとして活動してくれる仲間を集める必要があります。やめていく人もいますから、新たな仲間を募って運営していくことも必要です。そうすると、入会者に対する研修なども考えないといけないですね。仲間を集めるには、自治体の広報を使うなどするという方法があると思います。

規模が大きくなると、代表を決めたり、連絡方法を決めたり、組織としての運営を考えていく必要が出てきますね。

「立ち上げて終わり」というわけではないので、継続・発展させていくために積極的に動いていく必要があるんですね。

講座を立ち上げるに当たっては、いろいろなことを考えたり、ハードルをクリアしていく必要があるんですね。がんばって工夫して乗り越えていきたいです!

  • POINTS
  • 教室の形態を決める
  • 教室の場所を確保する
  • 参加者・仲間を集める・組織的に活動できるようにする

振り返ろう

フミさんと一緒に、みなさん自身の視点でこのセクションを振り返ってみましょう。

  • 取り組みの地道さについての感想

一番感じたのは、とにかく地道な取り組みが必要なんだなという点です。企業や商工会議所に直接問い合わせたり、自治体や議員さんに掛け合ったり…。
でも、私もヒトミさんやユウコさんたちのように、へこたれずにがんばってやっていこうと思いました!

  • 取り組みの計画性についての感想

講座の設計については、しっかりと目的と方針を立てて、それらに基づいた講座が行われていて、すごいと思いました。
このように講座の設計理念がしっかりしていると、いい講座ができるだけでなく、今後の発展にもつなげやすくなりそうで、とてもすばらしいと思いました。


実践を念頭に考えてみよう!

ここからは、みなさん自身で日本語教育空白地域をひとつ設定して、日本語教室立ち上げを企画してみましょう。

「アクションプラン」について

ここでは、課題に対する取り組みを「アクションプラン」として作成していきましょう。

「アクションプラン」ですね。今からすぐにでも動けるような、具体的な計画を立てるってことですか?なかなか難しいですね…。

そうですね。でも、上で見た北海道日本語センターの例を思い出してみてください。目的と方針をしっかり決めて、目的から遡っていく形で「やること」を考えて行けば、具体的な計画に行き着くはずですよ。

そうですね!やってみます!

やってみよう!

では、今回のアクティビティでどのようにして「課題→取り組み」について考えてきたかを振り返りながら、今度はみなさん自身の考えたテーマで実際の取り組みをプランしてみましょう。以下の手順でやってみましょう。

A. ケースとする地域を決める

みなさんの住む地域やその近郊の都市部でない地域で、外国人生活者が住んでいて、日本語教室が必要とされていると思われる地域を選んでください。実際には既に日本語教室があるような地域でも構いません。

B. 地域の状況を分析する

取り上げた地域について、外国人生活者の状況 (人数・国籍等) や、どのような事情で滞在しているか (在留資格) などを調べてみてください。また、国の資料などではわからない詳細な情報を得るためにはどのようなところに問い合わせればいいかを調べてみてください。

C. 教室の目的と活動を考える

B に基づいて、地域でどのような「場」としての日本語教室が必要とされているか考えてください。そして、それに合わせた日本語教室の形態 (1対1、クラス形式、小グループ・・・) を考え、どのような活動をしたいかも考えてください。

D. 教室立ち上げのために必要なことを考える

C で考えた活動をふまえて、① そのような活動を行うために、どのような日本人ボランティア向け養成講座が必要になるかを考えてください。② また、その地域で会場を借りて教室を開くなら、どのくらいの費用がかかるかや、自治体の支援が得られるような仕組みがあるのかなども調べてください。

どうですか?フミさん。できそうですか?

はい!私の住んでいるところは都市部なんですが、近郊の地方に、外国人の就労者の方が多いところがあるので、そこでの日本語教室立ち上げについて考えてみます。

いいですね。なるべく具体的な取り組み内容を考えられるようにがんばってください!