<ケーススタディ>
課題の分析と取り組み

現状を分析して、課題を整理する

まずは震災当時の状態を分析的に振り返ることで、どこに取り組むべき課題が存在するのかを考えて行きましょう。

ここでは、フミさんに、先ほど見た災害時の「状況」の中でどのような部分が気になったかを挙げてもらい、それらの個々の「状況」について、どのようであればよかったので、という「望ましい状態」を考えてもらいます。

(当時の) 現状:災害時の状況の分析

では、今後の改善につなげていくために、まずは今回の震災時の「状況」をもう少し分析的に見てみましょう。そして、どのようなポイントについて改善の可能性があるかを考えましょう。

フミさんは、先ほど見た震災時の「状況」の中で、どのような状況に対する改善の取り組みができたらいいと思いましたか?

状況 ① 協会の支援が不可能な状況

まず思いつくのは、停電などで情報のやり取りに制約がかかったり、支援の中心である国際交流協会の事務所が使えなくなったり、移動の制約が生じて地方と分断されたりして、支援が届けられなくなった状況についてかな。市内の活動に関しては協会のみなさんが臨機応変にできる限りの対応をしていたようですが、地方と分断された状況についても、何か改善できる取り組みがあるかもしれません。

交通網なども破壊されて物理的にも遮断され、歩いていける範囲での支援活動になったとも言っていましたね。このように、震災によって協会がいつも通りに機能できなくなること自体はしかたのないことですが、何らかの取り組みで、より改善された状況を生み出すことができるかもしれませんね。

状況 ② 支援者の助けを得られない状況

あとは、外国人生活者が普段支援してくれている地域の日本語教室などの支援者のサポートを得られないような状態になったことでしょうか。支援する側の人もできる限りの情報提供など、がんばっていたようですが、自分自身も被災者となっている上に情報も錯綜していたため、限界があったと思います。この点についても、支援が得られない状況を想定した改善の余地があるかもしれません。

そうですね。支援する側もできる限りのことはしていましたが、限界もあるという状況でした。これだけの震災ですから、これはどうしようもない状況でしたね。ただ、そういう状況下でも対応についての取り組みが何かできるといいですね。

状況 ③ 情報の正確な取得が困難な状況

あと、外国人生活者にとっての「言葉の壁」が高くなっていたという点も気になりました。放射能関係のような非日常的な言葉が理解できず不安になったというところですね。また、ネットが切断されてしまうような状況も想定した情報の共有のしかたについて、何か取り組めることがあるかもしれません。

正確な情報がなければ判断もくだせないので、とても困りますよね。先に見たデータでは、日本語で生活したり、基本的な情報を取得することはできる人が多いようでしたが、今回のようなケースでは事情が変わってきますよね。

では、フミさんが問題を感じた、当時の「状況」をまとめてみましょう。

  1. 状況①:協会が正常に活動できないという状況
  2. 状況②:(外国人生活者が) 支援者の助けを得られない状況
  3. 状況③:正確な情報の取得が必要なのにできない状況

望ましい状態:どのような課題が存在するか?

では、上で見たそれぞれの場合について、地震が起きた際にどうであればよりよかったのか、という「望ましい状態」を考えてみたいと思います。

まずは、状況① として挙げた、「協会が正常に機能できない状況」のような場合に、どのような状態であればよりよかったでしょうか?

状況 ① 協会の支援が不可能な状況に対して

協会の支援が正常に届けられなかったり、各地とのコミュニケーションや交通手段が分断されたりしても、各地で外国人生活者を支援する体制が自律的に機能するようになっていることが望ましいと思います。

なるほど。確かにその通りですね。福島県の各地で、災害等の特別な状況下でも自律的に外国人生活者の支援に動けるようなグループや情報網などが構築できているといいですね。

状況 ② 支援者の助けが得られない状況に対して

外国人の生活者の方自身が自分で判断を下して困難に対処できる状態になっていることが望ましいですね。あるいは、外国人のコミュニティ内であったり、近所の人と助け合えるといいと思いました。

そうですね。そのためには、外国人生活者がさまざまな事態に対処できるような知識やノウハウなどを持っていたり、周りの日本人とそのような関係を築いておくことが重要でしょうね。

状況 ③ 情報の正確な取得が困難な状況に対して

これは、情報の提供側が生活者の母語で情報を提供したり、しかるべき情報元に誘導したりするなど、状況に応じた情報提供のあり方が整備されているといいと思いました。ただ、情報を素早く提供する必要もあるので、状況によって使い分けられるといいと思います。

常日頃からどのような情報をどのように提供するかを整理し、情報を最も適切な形で提供できるような状態でいることが重要だということですね。

フミさんの考える「望ましい状態」を簡単にまとめると、以下のようになるでしょうか。

対策の必要な状況望ましい状態
協会の支援が届けられない分散的・自律的な支援体制
支援者の助けが得られない自助・共助のための知識や関係構築
素早く正確な情報の共有状況に応じた情報共有

振り返ろう

フミさんと一緒に、みなさん自身の視点でこのセクションを振り返ってみましょう。

  • 「平時」における「望ましい状態」

東日本大震災の際の福島県の状況は災害時だけの特殊な問題だと思っていたんですが、そうでないことが分かりました。上で考えた「望ましい状態」は、災害のあるなしにかかわらず、そうであるべき状態だと言えると思います。
ただ、そのような「望ましい状態」にないことで起きる問題が表面化するのが、災害時のような特殊な状況だっただけだと言えると思います。
ですから、これらの問題は災害が起きるかどうかと関係なく、取り組みを行っておく必要がある問題のように思えます。

  • 平時には表面化しない問題への取り組み

また、もちろん、東日本大震災のような大災害の際以外にも、「日常」とは異なる状況に置かれて困難な状況に陥るということは、誰にとってもあり得る状況だと思います。
ですから、そういった際のためにも、このように表面化した問題を解決するための取り組みについて考える必要があると思いました。

まとめ&コメント

このセクションでは、東日本大震災の際の外国人生活者とその支援に関わるさまざまな「状況」のうち、何らかの改善ができそうな部分を取り上げ、どのような状態 (「望ましい状態」) に持って行ければいいのかを考えてきました。

ここではフミさんの考えを見てきましたが、もちろん、みなさんにはみなさん自身の考えがあると思いますので、みなさんであればどの「状況」に焦点を当て、どのような「望ましい状態」を想定するのか、考えてみてください。

課題に対する取り組みを考える

当時の状況がどのようであったか、そして、望ましい状態はどのようなものであるのかがわりました。では、望ましい状態に近づいていくために、どのような取り組みが可能かを考えてみましょう。

フミさんが挙げてくれた3つの「状況」と「望ましい状態」のそれぞれについて、ひとつずつ考えてみましょう。

取り組み①:分散・自律的な支援ができるように

県の協会と分断され、支援が届けられない状態であっても自律的な活動がなされるような支援体制を作るために、どのようなことが必要で、どうすれば、それが実現できそうか考えてみましょう。

では、フミさんがひとつ目に問題にした「状況」である、県の協会と各地が分断された状況に対する取り組みを考えてみましょう。フミさんは自律的に活動できる組織が各地に分散して存在しているといいと言っていましたね。そのためには、何がどうしたらいいでしょうか?

そうですね。各地に協会の支部を作るようなことは難しいですよね…。あ、でも、各地にある日本語教室や外国人生活者コミュニティと連携できるように、つながりを作っておいたらいいかも。

なるほど。それはいいアイデアですね。例えば、フィリピンの人たちは協会を通じたコミュニティを形成していたりしますよね。あとは、就労で来ている人たちであれば、勤め先の職場というのもありそうですね。

では、どうすれば、そのような連携が可能になるでしょうか?

そういったコミュニティのリーダー的な人たちと県の協会とが普段からしっかりした関係を築いておき、重要な情報などは共有しておくようにする必要があると思います。

なるほど。各地のコミュニティの中心的な人たちとつながることで、協会とコミュニティのつながりを作っておき、いざというときに連携できるようにするということですね。協会自体がコミュニティからも信頼されていなければなりませんから、関係の構築は重要ですね。

では、そのような関係を築くには、どうすればいいでしょうか。

しっかりした人間関係を築くには、普段から何らかの関わりを持ち続けておくことが重要ですよね。あ!共同でいろんなイベントとかを定期的に企画して開催したらどうかな?そうすれば、常に協会の誰かとコミュニティの誰かが関係を持ち続けられるし。

共同でのイベント開催ですか。いいですね。イベントの内容なども、コミュニティ側からのニーズを吸い上げて実践できるとよさそうです。フミさんの話を簡単にまとめてみましょう。

取り組み① まとめ

必要なこと取り組み (目的)取り組み (方法)
各地のコミュニティと繋がる顔の見える関係を築いておく各地のコミュニティと共同でイベントなどを行う

いい調子ですね。ある程度、取り組みの内容が見えてきたのではないですか?この調子で考えていけば、いろいろと取り組めることが思いつきそうですね。実際に実行するにはもっと具体的なプランを練る必要がありますが、一旦ここまでにして、次に進みましょう。

取り組み②:自助・共助が可能なように

支援者のサポートが得られないような状況になっても、途方に暮れることのないよう、自助や共助が可能にしておきたいですね。次はこの点について考えてみましょう。

フミさんは、支援者の助けが得られない状況でも、外国人生活者が自分自身で状況に対応したり、近所の人たちと助け合って乗り越えていけるようにしたいと言っていましたね。どのようにしたら、これが可能になりそうですか。

自分自身での対応ということを考えると、そのための知識とかノウハウなんかを身につけている必要がありますよね。あと、近所の人たちとの助け合いには、やっぱり地域の住民との人間関係ができていることが重要だと思います。

そうですね。「自助」のためには最低限の知識などが必要ですし、「共助」のためには人間関係の構築が重要ですよね。

では、そのような外国人生活者が知識を得られるようにしたり、近所の人との関係作りができるようにするには、どのようなことが必要でしょうか。

地域の日本語教室で地震に関する講習を受けたり、地震について一緒に考えたりするなどの活動があるといいかな。外国人生活者だけでなく、近所の人たちにも参加してもらえば、関係も深まるし、同じ問題意識を共有できていいかもしれませんね。

いいですね。確かに、日本語教室は必ずしも日本語を教えるだけの場ではないということでしたよね。このように生活に関することを日本人と外国人が共に考えられるという場となっているといいですよね。

取り組み② まとめ

必要なこと取り組み (目的)取り組み (方法)
支援者のサポートのない状態に対応自助や共助が可能な状態に緊急な事態への対応講習を、地域の人を巻き込んで行う

ここから、具体的にどんな活動を行うか、それをどのように実現するか、というところまで考えられるといいですね。では、フミさんが挙げた最後の課題への取り組みに進みましょう。

取り組み③:正確で素早い情報提供ができるように

今回のような非常事態においては、情報がなかったり不確かだったりすると、次にとるべき行動も判断できず、不安な気持ちを煽るという問題もありました。正確な情報を素早く提供するためにどんな取り組みができるかも考えましょう。

フミさんは状況によって情報の提供の仕方を使い分けるなどして、外国人生活者が素早く正確に情報を取得できるようにしてあげたいと言っていましたね。では、そのためには何が必要でしょうか?

翻訳者などの人的リソースの問題などで多言語化が難しいケースも多いと思うので、既に多言語化されているページがあれば、そこに誘導できるようにしておく必要がありますね。
あとは、大使館などが単独で動く場合にも情報をもらえるようにしておきたいですね。

確かにそうですね。より情報を多く集めたり、正確に理解できる形で知らせることが必要ですよね。あと、既に存在する多言語サイトの活用なども必要ですね。では、これを実現するためには、どうしたらいいでしょうか?

既にある、多言語対応されたサイトなどを把握しておき、状況に応じて最適な情報を最適な手段で提供できるようにしたいですね。あと、各国の大使館などとも連携できるように、連絡チャネルを作っておいたほうがいいですね。

なるほど。いいですね。実際には、どんな状況があり得て、その場合にどのように情報提供すればいいかなどまで考えられるといいですね。ここでの話をまとめると、以下のような感じになるでしょうか。

必要なこと取り組み (目的)取り組み (方法)
外国人生活者が情報をより正確に取得できるように多言語化サイトなどに適切に誘導する国際交流協会の HP などからの導線を工夫する / 支援者向けの多言語サイト紹介講習を行う

ここから、実際に必要なサイトを探したり、様々な事態を想定して、どのような情報をどのような手段で提供するかを考えられるといいですね。

振り返ろう

フミさんと一緒に、みなさん自身の視点でこのセクションを振り返ってみましょう。

  • 状況の分析と「取り組み」

災害の際の状況を分析的に振り返って整理しておいたことで、個々の取り組みと期待する結果を具体的に考えることができました。
状況を整理して理解するのは重要ですね!

  • 具体的なプランの設計

ただ、実際の取り組みを行うためには、もっと具体的に実現までの道のりを描いてプランを立てなければならないと思います。
これについては、経験がないので難しいですね…。実際の取り組み事例などから学べるといいんですが…。

まとめ&コメント

このセクションでは、フミさんが先に挙げた3つの課題を解決するための取り組みの目的と手段 (方法) を考えてきました。取り組みの方法については、具体的に考えるという点が非常に重要です。実際に取り組むということを考えると、ここで考えたところからもう一歩進んで具体的な方法を考える必要があるでしょう。

次のセクションでは、福島県における実際の取り組み例を見ることができますので、そこを見ながら、より具体的な取り組みの方法について考えてみてください。