<実践>
アクションプランの作成
ここまで、東日本大震災の際の外国人生活者・支援のケースを例に、課題の洗い出しと取り組みの考察を行ってきました。では、ここからはみなさんの身の回りのケースを例に、外国人生活者の安心・安全な生活の構築について考えて行きましょう。
先ほどは、みなさんに福島県のケースを元に取り組みを考えてもらいました。では、実際に福島県でどのような取り組みが行われているのかを参考に見てみましょう。
地域の日本語教室の取り組み事例と、県の国際交流協会の取り組み事例を順に見ていきましょう。
ここでは、福島県での取り組みについて、県の国際交流協会の取り組みと、県内の日本語教室での取り組みを例に挙げて見ていきたいと思います。
では、ここではチカさんが日本語教室で行った取り組みを紹介していただきましょう。災害に関してはいろいろな取り組みをしているということですが、ここではそのひとつを紹介してもらいます。
「災害が起こったときに、家族や友達に連絡する方法を知ろう」
NTT 災害用伝言サービスを知り、サービスを体験する
こちらの日本語教室には、震災後に日本へ来た外国人生活者の方が多いため、災害について知ってもらおうと思ってこのような活動を行ったそうです。
災害の際には家族と連絡がつかなくなることもありますので、災害用伝言サービスの使い方を知ってもらおうと思いました。また、災害についても知ってもらい、話をする機会を作りました。
この活動は蓬莱日本語教室が作った『日本での生活をもっと安全にもっと快適にするための生活ガイド付き日本語教材 (インドネシア語版)』内の「トピック4 防災を心がけよう」に載っているものです。この冊子はこちらからダウンロードできます。
では、中身を見せていただきましょう。
伝言ダイヤルの説明
画像で伝言サービス (NTT東日本) の概要が説明されていて、やさしい日本語での説明も付いています。ここには出ていませんが、インドネシア語の翻訳もあるのことです。
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災害について話す
日本での災害だけでなく、国での災害についても話してもらえるようにしてあります。日本人が一方的に教えるのではなく、「教え合う」ことができるようになってるんですね。
また、自分の経験談などを話すような機会も作れるようになっています。
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伝言サービスを使ってみる
外国人生活者と日本人ボランティアが、実際に電話をかけて伝言サービスを使用してみたそうです。
電話をかけた後は、こちらのような教材で振り返りを行っています。また、誰に伝言を残すかについても考えられるようになっています。このようになっていると、実際にこれが必要な事態になったときも慌てずに対応できそうですね。
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振り返る
伝言サービスを使ってみるだけで終わるのではなく、それについて人にどのように説明するかという活動もありますね。このようなことができると、自分が使えるだけでなく、他の人も助けられそうで、災害時の「共助」につながりそうですね。
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チカさん、すばらしい活動ですね!実際にこの活動をした参加者の反応はどのようなものでしたか?
外国人生活者の中には、家族と連絡が取れなくなるという事態を考えて怖くなったと言う方もいました。
また、日本人ボランティアははじめは使い方を理解できなかったけれども、外国人生活者の人たちに教えてもらってできるようになった人もいました。
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まさに、「災害について考えてみること」や「住民同士が互いに助け合う」ことにつながっていきそうな活動ですね。
チカさんは、ほかにも、「ハザードマップを読む」や「非常持ち出し袋に何を入れる?」といった活動も行ったことがあるそうです。どちらも、外国人生活者と日本語住民が共に参加し、災害についての意識を高めるいい機会になったそうです。
福島県の国際交流協会では、どのような取り組みが行われているでしょうか。こちらはマックさんに教えてもらいましょう。
フミさんの挙げた課題の中には、何かあったときに、県の各地のコミュニティが自律的に支援活動に動けるといいという意見がありました。マックさん、福島県の国際交流協会で、地域のコミュニティとつながって連携できるようにするための取り組みなどは行っていますか?
はい。外国人生活者の同胞者のコミュニティの中には「キーパーソン」とでも言うべき中心的人物がいることが多いです。これらの方が代表を務めるコミュニティに協会に登録してもらい、協働事業を行うような取り組みをしています。
コミュニティの中心にいる「キーパーソン」は日本語も堪能で日本習慣等にも長けている方が多いそうですが、協会はこれらの人々の発掘に力を入れているそうです。
コミュニティとの協働事業
震災前には登録しているのは2団体だけでしたが、今は10団体に増えているそうです。また、これらの団体と以下のような活動をしているということです。
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「在住外国人の多様化と地域国際化協会の役割」 (幕田 2019) の表を加工
マックさん、各地のコミュニティとの繋がりにはとても力を入れているんですね。
はい。これらの同胞者コミュニティとの繋がり以外にも、各地の日本人ボランティアや、市町村の国際交流協会と「顔の見える」関係を築いて維持していくことにも力を入れています。
震災の際には、各地の日本人ボランティアや外国人生活者の方の活動に支えられた面も大きかったそうです。これには、これらの方々と「顔の見える関係」であることが重要だということです。
このようにして、福島県の国際交流協会は各地での支援活動を担ってくれるような人々やコミュニティとの繋がりを広げ、保持していくための取り組みを行っているんですね。
より広く、そして正確な情報を発信できるようにするための取り組み事例はどはありますか。
はい。2021年の福島県沖地震の際には、情報の発信方法も工夫をしました。この時には、情報の拡散方法を使い分けることで、情報をなるべく素早く、なるべく広く、なるべく正確に届けられるようにしました。
東日本大震災から10年後の2021年にあった福島県沖地震はM7.3の大地震です。このときには、協会は以下のような流れで情報発信を行ったそうです。
福島県沖地震の際の情報共有
- 発災直後に外国人生活者へのとりあえずの安否確認
- やさしい日本語で発信し、その後多言語で発信
- 公的機関の多言語サイトの活用
- 外国人を取り巻く多様な個人・支援機関への連絡
この流れの中の2〜4の部分に注目してみましょう。2では、いきなり多言語で情報発信しようとすると時間がかかってしまうため、まずは迅速にやさしい日本語での発信という対応を行い、その後多言語で情報を発信したということですね。さらに、3では正確な情報の共有のため、公的機関の多言語サイトを活用しています。そして、4では個人や支援機関を通して情報を拡散していったということですね。
このようにケースバイケースでどの情報をどのように共有するかを使い分けられるのはすばらしいですね。
フミさんと一緒に、みなさん自身の視点でこのセクションを振り返ってみましょう。
県の協会については、震災の際に得た経験を生かした取り組みですばらしいと思いました。
こういった取り組みは、地域や災害の多寡にかかわらず重要なものなので、とても参考になります。
また、東日本大震災のときの反省を生かしているという、福島県沖地震の際の対応もすばらしいと思いました。
地域の日本語教室では、災害時の対応に関する取り組みを外国人と日本人が一緒になって行っているというのも、いいと思いました。
震災のような状況では、日本人が一方的に外国人を支援する立場というわけではないので、このように一緒になって取り組むというのはとてもすばらしいと思います。
福島県における取り組みの事例を具体的に知ることができましたね。ここで見た通り、これらの取り組みにはしっかりした目的が設定されていて、その目的を達成するために実際の取り組みが行われています。このような取り組みを行うには、より具体的に望ましい状態を想定して取り組みのデザインを行う必要があることが分かりますね。
では、次のセクションでは、このように問題意識に基づいた目的を設定し、取り組みを行動に移すための具体的な案を考える練習をしてみましょう。
ここからは、みなさん自身で「安全で安心した生活」に関するテーマをひとつ設定して、課題を見つけるところからやってもらおうと思います。
ここまでは東日本大震災をテーマとして考えてきましたが、今度はみなさん自身がテーマを設定して取り組みについて考えてみましょう。
ここでは、課題に対する取り組みを「アクションプラン」として作成していきましょう。
アクションプランというのは、単に目的を具体的に設定するだけでなく、その目的を実現するための手段の部分までを具体的に計画したプランのことです。上で見た県の国際協会や地域の日本語教室での取り組み例がいい例になると思います。
確かに、さっき見たような実際の活動を行うには、目標を設定するだけでなく、どんなリソースを使うか、どんな人々と連携するか、などいろんなことを考えないといけないですね。
その通りですね。では、「具体的な取り組み」というゴールに辿りつくために、以下のような順番で考えてみましょう。
では、今回のアクティビティでどのようにして「課題→取り組み」について考えてきたかを振り返りながら、今度はみなさん自身の考えたテーマで実際の取り組みをプランしてみましょう。以下の手順でやってみましょう。
A. テーマを決める
みなさんの地域で外国人と日本人が「安心して安全に暮らせる社会」にするために解決すべき課題のある分野を考えてみてください。今回は大地震のケースをテーマとしましたが、これ以外の災害関係のテーマや子育てなど、別のテーマでも構いません。
B. 現状を分析する
取り上げたテーマの現状を書き出し、現状にどのような問題があるか、その問題はどこから来ているのか、を分析してみてください。今回フミさんは「協会と各地が分断された状態」「生活者が自身で解決しなければならない状態」「正確な情報取得の難しい状態」3つの状態に焦点を当てました。
C. 課題をまとめる
B で見た「現状」に対して、「どのような状態にあるのが望ましいのか」を考えましょう。現状と、この「望ましい状態」の間のギャップを「課題」としてまとめましょう。フミさんは「自律・分散的な支援体制」「自助・共助の準備」「正確な情報提供の準備」の3つを課題にしていましたね。
D. 取り組みを考える
C で見た「課題」を解決するための「取り組み」について考えます。フミさんにも最後に考えてもらいましたね。ただ、上で教えてもらった福島県での取り組み例を見ると分かるように、実際の活動につなげるためには、より具体的な形で考えるあります。
さあ、では、フミさんも一緒にやってみましょうか?
はい!こうやって実践的に考えて行けば、実際の取り組みが必要になったときにも具体的に立案して行動できそうです!
その調子でがんばってください!
ここでは、今回のケーススタディの流れを参考に、みなさん自身に見つけてもらった課題で「安心して安全に暮らせる」外国人生活者の生活のための取り組みについて考えてもらいました。
実際の現場でこのような取り組みを行う際には、なかなか一筋縄ではいかないことも多いと思います。また、取り組みによっては「やってみないとわからない」ということもあるでしょう。このように不確実性を受け入れつつ、やってみてだめなら、振り返って原因を明らかにして再度チャレンジする、というやり方で進めることが重要です。
先に見た福島県の取り組み事例のように、地域の特性を考え、外国人生活者の生活上のニーズから生まれた取り組みをしていけるように、がんばっていきましょう。